全面協力-2

シルバーが何か重大な秘密を抱えている。
ダイゴはそんな気がしていた。
それはこのシラヌイの一件と関わりがある気がしてならない。
たとえそうだとしても、シルバーに全面協力するというダイゴの決意は変わらない。

小夜とオーキド博士との通話が終わると、シルバーとダイゴは早速行動を開始した。
シルバーはダイゴが用意した小型カメラと携帯型無線機をゲンガーに持たせた。
何方もデボンコーポレーションが開発したものだ。
小型カメラはシルバーの予想以上に小型で、ペットボトルのキャップ程の大きさしかなかった。
シルバーは五台の小型カメラを布製の巾着袋に入れ、無線機と一緒にゲンガーに持たせた。
同じ無線機を持つシルバーは、自分と視線の高さを合わせて浮遊するゲンガーに言った。

「頼んだぞ。」

“オッケー!”

ゴーストタイプのゲンガーは書斎の中で透明化した。
ゲンガーが持つ巾着袋やメガバングルなども不思議と透明化し、物質を通り抜ける性質を生かしてガラス窓から外に出た。
ダイゴはシャッターさえもすり抜けていったゲンガーを見て、便利な能力だと思った。
だが感心している場合ではない。
書斎の中央にあるテーブルに移動させたパソコン画面には、五台分の小型カメラの映像が一挙に映るようになっている。
現在、巾着袋の中身が写っているが、暗くてよく見えない。
シルバーは無線機に向かって話した。

「ゲンガー、聴こえるか?」

《聴こえる。

只今、カナズミ市民ホール前。》

通訳のオーダイルが油性ペンを猛烈に走らせ、リングノートに字を書いた。
書き終わった途端、サッと二人に向けた。
すると、パソコン画面の右端にあるウィンドウにカナズミ市民ホールの玄関口が映った。
ゲンガーが草陰に小型カメラを隠して設置しているのか、葉っぱが映り込んでいる。
ゲンガーはシルバーの誘導で上手く設置位置を決め、小型カメラの本体に畳み込まれていた脚立を伸ばして土に差し込み、しっかりと固定した。
手を離すと、小型カメラは透明化をやめて姿を現した。
依然として透明化しているゲンガーは、その周りをぐるぐると回って四方八方から確認してみたが、小型カメラが誰かに気付かれる心配はなさそうだ。

《一台目、完了。》

「うん、上手く映っているよ。」

ダイゴは小型カメラの映像を観て、満足げに頷いた。
カナズミ市民ホールに出入りする人間の姿が、解像度の高い映像となってリアルタイムで送られてくる。

《次行くよ!》

事前に地図で位置を記憶していたゲンガーは、カナズミシティ内にある大きなホテル前に、次々とカメラを設置した。
シラヌイが宿泊するであろうホテルだ。
用意出来た小型カメラは五台しかなかった。
その為、市民ホールの場所などを考慮し、シルバーとダイゴが宿泊施設を四つに絞り込んだのだ。
一つ目の役割を遂行したゲンガーは、無事に帰ってきた。

「よくやったな。」

“うん!”

シルバーに労われ、ゲンガーは上機嫌になった。
ダイゴがパソコンを操作している隣に浮遊し、自分が設置した小型カメラの映像を確認した。
小型カメラは脚立を軸に角度を上下左右に変えたり、画面の拡大縮小の機能もある。
此処に送られる映像は録画され、後々見返せるようになっている。
ダイゴがそれらの機能を一つ一つ入念に確認した。

「問題なさそうだね。」

後は、シラヌイが現れるのを待つのだ。
このパソコン画面をシルバーとダイゴ、そしてポケモンたちで二人体制で監視する。
先ずはオーダイルとジバコイルが担当だ。
オーダイルは三人掛けのソファーの端に腰を下ろし、ジバコイルはその背後で浮遊し、画面をじーっと観た。
一人掛けのソファーに腰を下ろしているダイゴは、すぐ斜め前にいるオーダイルに感心した。

「それにしても、君は凄いね。

あんなスピードで字を書けるなんて。」

ダイゴは旅の最中に様々なポケモンと逢ってきたが、こんな風に通訳するポケモンなど初めて見た。

「デボンコーポレーションでは、ポケモンと話が出来る装置の開発に何年も前から取り組んでいるけど、成功の兆しは全く見えないよ。

でも字が書けるポケモンの通訳があれば、そんな装置も必要ないね。」

オーダイルの首にぶら下がっているリングノートには、ポケモンたちが発言した内容がびっちりと書き込まれていた。
残りページが僅かしかなく、新しいノートを調達しなければならない。
オーダイルはダイゴにニッと笑ってみせたが、すぐにパソコン画面に視線を戻した。
腕時計が午後二時を示しているのを見たダイゴは、スッと立ち上がった。

「昼食を用意するよ。

遅れてすまないね。」

やったー!と喜びを弾けさせたのはクロバットとマニューラだ。
クロバットはぐるんぐるんと飛行し、マニューラはソファーでぴょんぴょんと跳ねた。
クロバットの長い翼が天井の高級感溢れるシャンデリアにぶつかりそうだし、ソファーに置いてあるシルバーのリュックが落っこちそうだ。
シルバーはクロバットの短い脚とマニューラの首根っこを掴み、大人しくさせてからダイゴに言った。

「すみません、お言葉に甘えます。」

「いいんだよ。

少し待っていてね。」

ダイゴが微笑みながら書斎を後にしたのを見送ると、シルバーはすかさず空腹を感じた。
集中していたせいで、昼食などすっかり忘れていた。
クロバットとマニューラから手を離し、ソファーの背凭れに深々と背中を預けた。

「明日が勝負だ。」

シルバーの独り言に、ポケモンたち皆が頷いた。



2017.8.30




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