言葉の矛盾

小夜とシルバーの二人は、お互いのポケモンたちに加え、オーキド博士とケンジと共に話し合った。
シルバーは自分が過去に飛んだ話について、精神的に憔悴しながらも事細かに話した。
バショウとの会話やUSBメモリは、皆を驚かせた。
シルバーが心配していたのは、小夜の動揺だ。

『シルバー、待たせた?』

《いいや。》

小夜はシルバーの部屋、シルバーはポケモンセンターを出て海岸にいた。
ポケモンたちは近くにいない。
二人だけでポケナビを通して話していた。

『疲れた?』

《…かなり。》

既に空は薄暗くなっていた。
話し合いにかなりの時間を要したからだ。
小夜はシルバーのベッドに寝転びながら、その枕に顔を埋めた。
微かにシルバーの優しい匂いが残っている。
シルバーの声を聴きながらその匂いに包まれていると、まるでシルバーが傍にいるように感じた。
もっと話して欲しいと思った時、シルバーから質問が飛んだ。

《俺の話を聴いて、率直に如何思った?》

シルバーが慎重に尋ねると、小夜は瞳を閉じた。
答えはすぐに導き出せた。

『二人にありがとう…って思った。』

《あいつと、俺か?》

『うん。』

《あいつに感謝するのは分かるが、何故俺もなんだ?》

シルバーは彼との会話を思い出した。
相変わらず彼は小夜思いで献身的な人物だった。
そんな彼にシルバーは必死で訴えた。


―――お前は小夜に惚れる。

―――小夜はお前を愛していたし、今もそうだ。

―――死ぬな!!


『シルバーは何時も…私の為を思ってくれるね。』

シルバーがどのような気持ちで彼と話をしたのかを考えるだけで、小夜の胸は苦しくなった。
亡き彼にも愛されていると思った。
彼がシルバーに渡したUSBメモリに入っていたウイルスソフトには鍵がかけられていたが、そのパスワードは小夜の名前だった。
そのソフトを開発した彼が小夜を想っていた証拠だ。

『ねぇ、シルバー。』

《…何だ。》

『シルバーは自分が私の傍にいる未来が変わった方がいいと思ったの?』

小夜の声は淡々としながらも物憂げだった。
冷静になろうと努めているのがシルバーにも分かった。
シルバーは過去に飛んだ際の自分を思い出しながら、本心を口にした。

《あいつが死ぬ運命が変わったら、俺はこうしてお前とは付き合っていなかった。

あいつがお前を守るだろうからな。》

小夜と彼の間に自分が入り込む隙などありはしなかっただろう。
実際、彼の生前はそうだったのだから。

《俺はあいつに死ぬなと言いながら…お前と離れたくなかった。》

小夜と共に生きる未来を歩きたかった。
シルバーは誰もいない海岸で、独り立ち尽くした。
拳を握る手が小刻みに震えた。

《俺は予知夢の当日になっても、絶対に死なない。

あいつの前ではその根拠のない自信が揺らいだ。

俺がお前に刺されて死ぬ運命があるのなら、あいつが生きてお前の傍にいる方がお前の為になると思った。

それでも――》

此方の本心を聴いた小夜が如何反応するのか、シルバーは正直怖かった。
それでも、隠さずに全てを曝け出したかった。
小夜に受け入れて欲しいからだ。

《――それでも俺は…お前を渡したくなかった。》

小夜は一言も聴き逃すまいと、瞳を閉じていた。
シルバーの最後の台詞を聴いた時、涙が溢れた。
声が震えそうになるのを必死で堪えながら、心の矛盾と葛藤しているシルバーに訴えかけた。

『離れようなんて思わないで。

渡そうなんて思わないで。』

そう口にしてから、小夜はそれが自分の我儘だと思った。
小夜がシルバーに別れようと言い出したの日からまだ浅い。
自分はシルバーを振り回し過ぎている。

『ごめん…。』

《何故謝る?

俺は嬉しい。》

シルバーは小夜とハテノの森で交わした会話を思い出した。
あの時、小夜は泣いていた。


―――現実を受け入れるから。

―――だからこの世界で、私と一緒に生きて。


《俺とこの世界で生きてくれ。》

『うん、ずっとよ?』

《ああ。》

予知夢の当日まで残り二週間を切っている。
シルバーは死ぬ訳にはいかない。
小夜と共に生きる為にも。




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