戦闘開始-3
バショウが特殊な反応を警告する画面を見つめていると、視界が白く曇った。
「霧?」
辺り一面に霧が立ち込め、視界が霞んでしまった。
すると黒い球体が団員の方向へ飛来し、地表に叩き付けられると砂埃が立ち込めた。
霧に砂埃が追加され、視界は完全に遮られてしまった。
バショウは砂埃を防ぐ為に、腕で顔面を覆った。
これはあの研究所でも見たシャドーボールだ。
やはり小夜なのかもしれない。
「ぐあ!」
「何だ、止めろ!」
団員の悲痛な声が聴こえた。
今何が起こっているのか、視界の悪いバショウには見えなかった。
「クロバット、ゆけ!
霧掃いだ!」
団員の一人のボールから繰り出されたクロバットが霧と粉塵を掃った。
だが驚いた事に、檻にはイーブイの姿が全くなくなっていた。
檻の柵が曲がっており、中にいたイーブイは団員を踏み潰しながら逃走したのだ。
その証拠に、タブレットの画面に大量のポケモンの反応が遠くへ移動しているのが映し出されていた。
一方小夜は念力によって檻の柵を曲げて檻自体を故障させると、中にいたイーブイを脱走させた。
先程のオーロラビームと白い霧はスイクンのものだった。
小夜は檻に監禁されていたイーブイたちが無事に逃げたのを確認すると、心からほっとした。
だがそれもほんの束の間、小夜のイーブイは団員の一人に首根っこを鷲掴みにされてしまった。
「こいつ、調子に乗りやがって!」
イーブイは苦しそうにもがき暴れるが、団員の大きな手から逃れる事が出来ない。
しまった、と小夜は唇を噛んだ。
先程のシャドーボールと念力によって体力は限界寸前だった。
だが自分の身を案じてなどいられず、ついに草影から姿を現した。
『イーブイ!』
小夜が駆け出したのを見て、スイクンも意を決してその後を追った。
バショウは小夜とスイクンの姿を見た瞬間、目を静かに細めた。
今、小夜には逢いたくなかった。
「伝説のポケモンであるスイクン。
貴方が自ら私たちの前に姿を現すとは、奇遇な事もあるものですね。」
『……。』
バショウが自分に目もくれない事に、小夜は不審感を抱いた。
イーブイは小夜とスイクンに逃げてくれと声を上げた。
自ら飛び出してきた伝説のポケモンに目を奪われていた団員は、これはまたとない機会だと目を怪しく光らせた。
「バショウ隊長、スイクンです!
捕獲しましょう!」
「何故伝説のポケモンがあんなガキと共に行動しているのでしょうか?」
バショウは返事をしなかった。
小夜捕獲計画はロケット団の中でも幹部の一握りにしか知らされていない極秘計画。
下っ端の団員は小夜の存在すら知らない。
更に計画は極秘である為、小夜に関する情報を口に出すのは幹部であるバショウでも一切許されない。
「隊長、スイクンを捕獲しましょう!」
「……。」
バショウは伝説のポケモンであるスイクンを目の前にしても、驚く程に関心が湧かなかった。
今は小夜に如何対応するか、そればかりを考えていた。
だが団員に怪しまれる訳にはいかず、スイクン捕獲の方向で行動するしかない。
「スイクンと共にいる貴女は一体何者ですか?」
『…。』
やはりバショウは小夜を知らない振りをしている。
だが何故振る舞っているのか、小夜には理解出来なかった。
小夜はバショウに尋ねたい事が多数あったが、小夜もバショウとは初見である振りをした方がいいのかもしれない。
だが如何してもバショウにぶつけたい問いがあった。
―――バショウは黒か白か、どっちなの?
あの時のように、小夜の声がバショウの心の中に聴こえた。
これはテレパシーだ。
バショウは目を細めた。
昨日、小夜に逃げろと言った事。
たった今、矛盾したようにロケット団として小夜と向き合っている事。
小夜を混乱させているのは間違いないだろう。
一方の小夜は息切れと滲む汗が体力の限界を知らせているのを感じていた。
体力の少なさに心底苛立った。
「私の質問に答えられない程、疲れていると見受けられますね。」
『っ。』
小夜は顔を顰めた。
バショウは一体何を考えているのだろうか。
「我々の前に現れた事を後悔させてあげましょう。」
バショウはモンスターボールを放ち、小夜が研究所でも見たイワークが現れた。
団員三人もクロバットに追加して更にポケモンを繰り出した。
デンチュラ、ベトベトン、モルフォンだ。
小夜は唇を噛んだ。
相手は五体。
此方はスイクンと体力が殆ど残っていない小夜。
更にはイーブイを捕えられている。
イーブイを見捨てるなど、小夜には出来ない。
小夜は隣にいるスイクンを見つめると、スイクンは頷いた。
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