時は突然に-2

『ん?』

冷水で洗顔していた小夜は、ふと何かの気配を感じた。
スイクンも何かを感じたらしく、滝の上へと視線を送った。
小夜も瞳を凝らして同じ方向を見つめた。
其処には、滝を下に眺めるようにして一匹のポケモンが立っていた。
川から顔を上げたイーブイは、何事かと小夜の顔を見た。

『あれは、タツベイね。』

タツベイは此方に気付いている筈だが、
小夜たちの事は眼中になかった。
何処か闘志に満ちた表情のタツベイは息を吸い込むと、後方に走って行った。
滝の落下点付近にいる小夜たちには、タツベイの姿が見えなくなった。

『何だったんだろう?』

疑問に思ったその時、タツベイが勢いよく助走して滝から飛び降りた。
タツベイの気合いの入った叫び声が辺りに反響した。

『ええっ?!』

思いも寄らないタツベイの行動に、小夜たちは目を見開いた。
このままでは確実に川へどぼんだ。
それに現在の川の流れは速く、あの小さな身体では溺れてしまう。
念力を使えるだけの体力が回復したのか否か、小夜に迷っている時間はなかった。
咄嗟に掌をタツベイに向け、瞳を青く光らせるのを合図に念力を使った。
それを見たスイクンとイーブイは更に目を見開き、小夜が普通の人間ではないと確信した。
川に落下する寸前の処でタツベイの身体は青い光に包まれ、ふわっと浮き上がった。
タツベイは唖然として口をぽかんと開いた。
小夜はタツベイを浮遊させたまま移動させ、自分の脚元に置いた。
何が起こったのかを未だに理解出来ていないタツベイは、自分の身体に異常がないかを慌ただしく確認した。
安心した小夜はふぅと息を吐いた。
何とか念力を発動出来たが、折角回復し始めた体力をまた此処で消費してしまった。
だがこのポケモンを助ける事が出来て、心からほっとした。

『何してるのよ、全く。』

タツベイははっとして小夜を見つめると、慌てて小夜を指差した。

“お前がやったのか!?”

『そう。』

“ボーマンダになる為の修行なんだ、邪魔をするな!”

タツベイは小さな小夜よりも更に小柄な身体で訴えた。
念力が使える小夜を、エスパーポケモンが化けているか、もしくはこれ自体が夢だとタツベイは思い込んでいた。

『そういえば、タツベイは翼が欲しくて崖から飛び降りる習性があるんだっけ。』

小夜はポケモン図鑑を再度思い出した。

『次に進化してもまだコモルーだから、まだ翼は生えないよ。』

タツベイはそれを聴くと途端に真っ青になり、両手を地面に着いて項垂れた。
がーんという効果音が相応しいその場面を小夜は苦笑して見ていたが、すぐに滝の上に再度視線を送った。
先程感じた気配はタツベイではない。
もっと悪意に満ちた邪な気配だった。
何かが起ころうとしている。

『スイクン。』

スイクンの名前を呼ぶと、スイクンは素早く頷いた。
少し屈んで小夜が乗り易い体勢を取ると、小夜が地面を蹴って軽やかにその背中に跨った。
小夜とスイクンは出逢ったばかりにも関わらず、阿吽の呼吸だ。

『タツベイ、もうあんな事しちゃ駄目だからね。』

小夜はタツベイに笑顔でそう言うと、次はイーブイを見つめた。

『私たちは行くよ。

イーブイ、君は絶対に幸せになるんだよ。』

小夜とスイクンは何処かへ向かう気だ。
別れの時間だ。
イーブイは小夜に熱い視線を送った。
此処で野生に戻る事が出来る。
自分を救ってくれた命の恩人に、今感謝の気持ちを伝えなければ今後は逢う機会はきっとない。
だが、イーブイは声が出なかった。
此処で別れるのは、違う。
イーブイはスイクンが駆け出す寸前に小夜の膝の上へ飛び乗った。

『イーブイ?!』

その瞬間スイクンは地を蹴って飛び上がり、先程タツベイがいた滝の上まで一蹴りで移動した。
それを見たタツベイは羨ましげに頬を膨らませ、自分の膨らんだ頬をそのまま抓ってみる。
痛い。
これは夢ではない。
ならばあの人間は?
タツベイは唖然としたまま、暫くその場に立ち尽くした。




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