素性-3

ニューアイランドの研究所まで自分を迎えに来たヘリに乗り、バショウはロケット団の本社に向かっていた。
早朝のヘリの中でバショウは何かを感じ取り、閉じていた目をふと開いた。

小夜……?

妹のような存在だった小夜が、自分を呼んでいる気がした。
小夜は今如何しているのだろうか。
知能が高いとはいえ、身体は小さく、体力があるとは言い難い。
それに小夜は特殊な能力の持ち主だ。
ポケモンとの会話や相手の記憶削除も可能だ。
その能力が知られると、悪用しようと考える人間が群がってくるのは不自然ではない。

小夜の脱走後、小夜によってフジ博士や研究員の記憶は抹消されていた。
つまり小夜に関する記憶を全て失っていたのだ。
バショウはたった一人、小夜の記憶が残されていた。
小夜が研究員に記憶削除を実行したのは、バショウの予測した通りだった。
バショウは研究所を後にする前に、少量落下していた小夜の血液を全て拭き取り、拭き取った布ごと海に投げ捨てて処分した。
フジ博士によって血液から遺伝子配列を解析されると厄介だからだ。
更に研究所のコンピュータに侵入し、小夜に関する研究電子データを削除した。
更には名残を惜しみながらも、小夜が使用していた服やおもちゃも燃やして処分した。
研究員の全員が意識不明の間に、フジ博士の中から小夜を完全に葬り去る為に尽力した。

そもそも、ロケット団の投資によってあの研究所は成り立っている。
外見は人間でもポケモンの能力を持つ小夜を造り出すように命じたのは、他でもなくロケット団だった。
バショウはその若さながらにしてロケット団の幹部であり、研究所から無断でロケット団に様々な情報を漏洩させていた一人だった。
ロケット団から研究員として派遣され、この研究所で働いている人間は数多く存在する。
バショウがフジ博士から小夜の監視を言い渡された時は、ロケット団としての任務に最適な役割だ、と自分の運を褒めた。
その時は小夜に対してこのような愛情が湧くなどとは微塵も思ってもいなかったのだ。
幾ら命令とはいえ、小夜やミュウツーの情報をバショウ自らがロケット団へと漏洩させてしまったのだ。
まさに、後悔先に立たず。
ロケット団幹部の一握りの間で、小夜捕獲計画の企画が始まってしまった。
バショウのノルマはミュウツーではなく小夜だった。
小夜が脱走した今、研究所でのバショウの任務は終了した。
それが今こうやってヘリに乗ってロケット団本部へ向かっている理由だ。

小夜はバショウに関して何も知らなかった。
バショウがロケット団である事も。
四年間共に過ごしてきて、小夜がバショウに関して追究してきた事は一度もなかった。
自分がロケット団である素性を知られると、小夜から完全に拒絶されてしまうだろう。
今までもそうだったが、今後も何時小夜に素性を知られるか分からない。
それはバショウにとって大きな不安要素だった。

最強のポケモンを造るのが夢であると主張したフジ博士を、ロケット団は上手く利用した。
資金を送ってミュウツーを造らせたのは、ロケット団がミュウツーを利用する為だった。
そして小夜も、ロケット団が利用する為に研究所に造らせたものだ。
ロケット団は小夜とミュウツーを見逃がしはしない。

ロケット団はアイを復活させるというフジ博士の野望を見抜けなかった。
小夜とミュウツーがフジ博士にとってただの踏み台である事を、ロケット団は今後も知る由はない。

バショウはもう一度目を閉じた。
現在、小夜はロケット団にとって捕獲対象だ。
次に逢う時は、本当の敵同士だ。



2013.1.14




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