心の中-3

回想を終了したバショウは、隣で廊下を歩く小夜を一瞥した。
成長したとはいえ、まだ幼い小夜はその小さな手でバショウの手を握り返してくる。
例のポケモンに小夜を逢わせるという事は、小夜にとっては転機となる筈だ。
フジ博士が何を考えているのか、バショウには分からなかった。

何か考え事をしていて無言のバショウと、小夜は手を繋いで歩いた。
バショウは普段から無表情が多いが、今日は一層無表情だ。
小夜は楽しい事が待っているのではないと悟った。
特別なポケモン≠ニいう表現をしたバショウだが、小夜はそれに心当たりがあった。
自分が目覚めた時、隣のガラス管で眠っていたポケモン。
部屋にあるポケモン図鑑に載っていなかったポケモン。
つまり人造ポケモンであり、自分と同様の人造生命体だ。
だが自分は人間であって、ただ特殊な能力を持って生まれた人間だ。

二人が一歩一歩靴の音が反響する廊下を無言で進むと、バショウはとある扉の前で立ち止まった。
胸ポケットから何時ものカードを取り出し、カードリーダーに通す。
この四年間で一切開いたのを見た事がない廊下の扉が、小夜の目の前で静かに開いた。
視界に入ってきた光景は、四年前に小夜が見た光景と殆ど同じだった。
複数のガラス管の中に何匹かのポケモンが眠っている。
ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネ、そして小夜に心当たりがあったあのポケモンだ。
そのポケモンたちの生命反応を表示する電子画面の前に、男性が一人だけ座っていた。
他には誰もいないようだ。
その男性は椅子を回転させ、小夜の方を向いた。

「来たか。」

「フジ博士、連れて参りました。」

「バショウ、お前は下がっていい。」

「かしこまりました。」

バショウは一礼し、小夜を一瞥してから研究室を去っていった。
小夜の視線は一匹のポケモンにだけに注がれていた。
その場にいた男性、フジ博士は口を開いた。

「お前は知能が高い。

私たちはお前をそう造り上げたのだ。

だから覚えているだろう、お前が完成した時に隣で眠っていたこのポケモンを。」

『…。』

「さあ、此処へ来なさい。」

フジ博士に催促され、小夜はそのポケモンの前まで慎重に歩み寄った。
そのポケモンは四年前に見た時よりも成長している。
子供と成人の間程度だろう。
だが眠っている格好は依然として同じであった。

「このポケモンはミュウツー。」

『…ミュウツー?』

「私は南米の遺跡からミュウの睫毛の化石を発見し、その遺伝子の解析に成功した。

そしてその遺伝子を利用して、このポケモンを造り出した。」

だから名前が、ミュウツー。
小夜はガラス管に触れ、ミュウツーを見上げてみる。
ミュウツーが目覚める気配はない。

「お前は私たちが予測した以上に知能の発達が速かった。」

フジ博士には小夜がもっと成長してから話そうと思っていた事があった。
小夜とミュウツー、そしてミュウとの関連性だ。
今それを言わんとしていた。

「小夜。」

『何?』

小夜はミュウツーに視線を送ったまま返事をした。
フジ博士は壁に掛けられている石盤を指差した。

「あれがミュウだ。」

小夜はやっとミュウツーから視線を逸らし、次はミュウの石盤を見つめた。
古惚けたそれには一匹のポケモンが彫られていた。

「ミュウツーと交信してみるといい。

お前なら出来る。

アイに出来たのだから。」

『アイ…?』

アイとはフジ博士が昔、交通事故で亡くした娘の名だった。
フジ博士は小夜が造り出される前に、アイの意識レベルを造り出して幼いミュウツーと交信させた事があった。
だがアイは肉体を持たない意識の塊であった為に、儚くも消えてしまった。
そんな事を知らない小夜はただ無言でフジ博士の顔を凝視していたが、再びミュウツーの顔を見つめた。

ミュウツーと交信?
そんな事が出来るのかな。
でも、このポケモンと話したい。
私はこのポケモンと同じ、人に造られた生き物だから。

小夜は瞳を閉じた。




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