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「もうダメ…これ以上は…」


霞む視界と、荒い吐息。

どうして、何故、と。

一人で生きるつもりだったのだ。
“あの人”を失ってからは───

けれど自分一人の力では『結界』を張れず、彼のように身を守る事も、身を隠すことも出来なかった。


「カァ── !! カァ── !!」

「…ッ!」


頭上を飛ぶ鴉…もとい、自分を探す監視の目達から慌てて身を隠す名前。

力を使いたくなんてない。
もう誰も…傷つけたくなんてない。


「おいっ!!大丈夫かよお前?怪我して───

「来ないで!!!」


前から歩いてきた高校生くらいの少年。

彼に向けて慌てて来ないよう叫び、首を横に振る名前。


─── ダメッ…!!今来たら…彼は関係が……


「あぁぁぁぁぁあぁっ!!!」


苦しい、クルシイ、と。

抑えきれないまでの力が、感情が。

溢れ出すままに腰元の“妖刀”を掴み、気がついたら目の前の少年にそれを振り上げていた。


「イヤ…ッ!!だめっ!!お願い…っ!!!」


もう誰も傷付けたくない。
だからお願い…


「事情は分からねぇが、取りあえず止める!!ごめん!!」

「きゃっ!!」


刀を手にした腕を少年によって掴まれたかと思うと、次の瞬間には地面に押し倒されていた。


「嘘、でしょ…?」


今の名前をつき動かしているのは間違いなく、名前の中に流れる抑えきれない程の『呪力の暴走』からで。

それなのにどうして…

どう見ても呪術師でないような普通の少年が今の自分を止める事が出来ているというのか。そもそも呪術師であれば呪力を垂れ流しにする今の自分相手に、素手で向かってくるような無謀な事もしない筈で。

ならばこの少年は一体───


「悪ぃ。こうするしか思いつかなかったんだ。もう離しても平気か?」

「…だめ!!」


押さえ付ける腕の力を抜こうとする少年に、名前は慌ててまた首を振った。


「今手を離されたら…私はあなたを殺してしまう。だから、私を殺して」

「!?」


死にたいの、と。
涙を流してそう訴える名前に、戸惑うように瞳を揺らす少年。

けれども掴まれている腕をブルブルと震わせる彼女の掌には、鋭い切っ先を持つ鋭利な刀が握られていて。

手を離せば間違いなく、その切っ先は少年の心臓を狙うのだろう。

けれど、


「何言ってんだよお前!!お前が死んだら悲しむ奴とか、そーゆー人が沢山いるだろ!!」


少年のその怒鳴り声に、一瞬何を言われたかの判断が出来なかった。


「何、を」

「そーゆー人達の気持ちも考えずに、簡単に死にたいとか口にしちゃダメだ!!」


真剣な瞳でそう怒鳴る少年を見て、こんな状況だというのに名前は彼を羨ましく思った。

きっと、彼には彼が死んだら悲しんでくれるような人達が大勢いるのだろう。

自分にそんな人達はいない。


「いないよ、そんな人たち」


彼女がそう言って悲しそうに微笑んだ事で、少年の拘束が一瞬緩んだ。


「!!」


それにより名前の手に握られた刀は真っ直ぐに少年の胸へと───


ゴンッ!!


刀が彼の心臓を抉る寸前。

強い衝撃と共に視界に火花が散ったかと思うと、名前の意識は暗転したのだった。


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