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「つーか、何でアンタそんなに名前ちゃんに懐かれてんの?」


名前に右腕を掴まれ、ピッタリと体を寄せられている悠仁を羨ましい…!とばかりにハンカチを噛んで睨みつける野薔薇。


「何でって言われても…なあ?」

「まさか…!?ダメよ名前ちゃん!!こんな非モテに惹かれちゃ!!」

「俺とオマエまだ会って数時間とかじゃない!?」


俺の何を知ってんの!?と荒ぶる悠仁と野薔薇を名前がとりなそうとした瞬間、


「…っぶね!!」


名前の首元に迫る鋭い切っ先に気が付いた悠仁は、咄嗟に名前を抱えてその場から飛び退いた。


「名前ちゃんに何しようとしてくれてんのよっ…このっ!!」

「ギエエエッ!」


現れた呪霊に素早く飛びかかって攻撃する野薔薇だったが、その後ろから更にもう一体の呪霊が現れ、加勢しようとした名前と悠仁の前にももう二体別の呪霊が立ち塞がった。


「名前!!」

「大丈夫…!こっちは任せて!」


ヒュンヒュンと長い腕を振り回して迫る呪霊に追いやられ、廊下を後退させられる名前。

助けに入ろうとする悠仁にそう返した名前は、狭い空間では勝機が薄いと判断し、窓を破って飛び降りた。


「ギッ!ギョッギョッ!!」


名前の後を追って同じように飛び降り、再び長い腕で迫ってきた呪霊に狙いを付けた名前は、村正を一閃させて素早くその腕を切り落とした。


「ギョ───── ッ!!」

「…え!?」


けれども切り落とされた腕はまたすぐに再生し、先程とは比べ物にならないほど凄まじいスピードで迫ってくる呪霊。


「心臓とかを取らない限りはダメって事…!?」


ならばそこ以外に注力するのはやめ、叩き潰そうと迫る腕を避けつつ名前はスっと瞳を眇た。


そして───


ドシュ!


「ギ…エ……」


村正によって一点を刺し貫かれた呪霊は真っ赤に血走らせていた瞳を白目に変え、ドスンと前のめりに倒れた。

仄かに感じる村正からの呪力の気配に、トドメを刺せたのは自分の力だけでなく、村正による効果も大きかったのではないかと思う名前。


「本当にこれは…時人が最後に私に残してくれた刀なの…?」


腕輪によって呪力の暴走が止められている今、その刀は確かに名前の手の中に収まり、名前の意思に基づいて呪霊を祓ってくれて。

…だが、肉親である名前に手をかけられた時人は名前の事を恨んでこそすれ、こんな刀を残してまで護ろうとしてくれるものだろうか?

この刀にはもっと別の───


「名前!!大丈夫か!」


呼ばれた声に名前が顔を上げれば、声がけた人物である悠仁の腕の中には何故だか男の子が抱かれていた。

その隣では野薔薇が名前に向けてブンブンと手を降っているのも見える。


「ちょっと色々あったけど、無事こっちの方も解決したからさ!」


そう言って男の子を隣に居る野薔薇に預けた悠仁は、名前が割った窓からタンッ!と飛び降りて駆け寄ってきた。


「名前もちゃんと呪霊倒したんだな!さすがだぜ!」


そういってニッと笑う悠仁を見た名前は先程過ぎった思考を振り切るよう軽く頭を振ると、同じように微笑み返したのだった。


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