「おい」

「わ!!」


夜が明けてすぐ。名前は抜き足差し足と細心の注意を払っていたにも関わらずかけられた声にビクッと背を仰け反らせると、恐る恐るといったように首を振り向けた。

そこには声を掛けた赤井が挑むように立っていて。


「こんな朝っぱらから一体どこに行くつもりだ?」

「ちょっと朝のランニングに…」


ここはFBIが名前に与えてある高層マンションの一室だった。
ジェイムズより名前の護衛を任された赤井は昨日の治療後、名前をここまで送った後あろうことかそのまま半ば強制的に一晩泊まったのだった。


「ホ─── …」

「いや、あのね…? うん。いや、別にこれは…ってちょっ!!」


まだセリフの途中だと言うのに腕を掴まれ、ぐっと引き寄せられた。
バランスを失った身体はそのまま赤井の胸に倒れ込む形となってぶつかる。


「朝っぱらから汗をかきたいのであれば── 外に出ずとも俺が今ここで。その期待に応えてやろうか?」

「は? …えっ、ちょっ! やめっ!…んぅっ!」


強制的に上げさせられた顔。

そこに抵抗する間もなく赤井の唇が迫ってきたかと思うと、深く深く口付けられた。


「や、めっ……ッ!!」


苦しくなって口を開いた瞬間、赤井の舌が入り込んできて舌を絡め取られた。


「……んんっ ! ゃっ、あ っ」

「何を隠している?」

「!」


二、三度強く舌を吸われた後、赤井が唇を離してそう問いかけてきた。


「っ……」


ままならない呼吸もそのままに、必死で視線だけでも赤井から逸らそうとする名前。
だが赤井が離してくれそうにないと悟ると話すべきか迷うように沈黙し、俯いた。

その沈黙をいい事に赤井は改めてじっくりとその顔を観察する。


FBIの中でも変装をしていない名前の素顔を知っている者は極少数しかいなかった。
ましてやその素顔を見れる事はおろか、こんな近距離で見る機会を持てる者などほとんどないに等しいだろう。

毛穴なんてあるのかというくらいキメの細かい白い肌に、人形のように大きな瞳と整った鼻筋。
何を塗っているわけでもないのにしっとりと濡れる唇は、男ならば本能的に奪ってしまいたくなる程までに艶っぽかった。

思わず顎を掴んでいる親指でその唇をなぞると、思考中だった名前が反射的に顔を引こうとした。

…が、逃がさない。

組織に狙われていなかったとしても、変装がなければ数メートル歩いただけで何人の男から声をかけられるかわかったもんじゃない。


「こんな時間から本気でランニングをするつもりだったのなら…お前は昨日の今日で、抵抗できないような状況で襲われたいと?」

「は?! 黒ずくめの奴らでもない限り、誰も襲ってなんか来な…って、痛ッ!」


自身の容姿に対する自覚の低い名前に苛立ち、赤井は話してる途中の名前の舌を引き出してその先を継がせなかった。


「ジョディ達の手前黙ってはいたが、昨日とっさに飛び出して行ったのは、何かワケがあるんだろう?」

「!」


その瞬間逃げようする名前の行動を既に読んでいた赤井は、バタバタと抵抗する名前を見て口端を釣り上げて笑った。


「フッ…本当にお前は、昔から嘘がつけない質だな」


─── ここで逃げようとするなんて、自ら俺の言葉を肯定しているようなものなんだが。


「やっ 離しっ…離せってばシュウっ!!」

「おい待て。怪我してるんだからそんなに暴れるな」

「う─── っ !!!」


怪我に構わず暴れる名前を赤井は仕方なく持ち上げると、そのまま名前が向かっていたのとは逆方向の寝室へと向かった。


「えっ?! な、なんで寝室…?!」


赤井に下ろされたベットの上で戸惑い、焦ったように辺りを見回す名前。


「な、なんで、」

「直接体に聞いてみた方が分かりやすいかと思ってな」

「は?!!」


名前の両手を頭上で一つにまとめニヤリと笑う赤井の顔を見たのと同時、名前の体はゆっくりとその身を倒された。



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