「ぐああああっ!!」
パンッ
「がッ!!」
複数の銃弾を受けた男の体が跳ねる。
けれどどれも急所を外して撃たれているせいで意識を失うことも出来ず、撃たれた男はただひたすら悶える事しか出来なかった。
── が。そんな男の様子に顔色一つ変えることなく、その銃口を男に向けて構えたまま歩み寄って行く、黒の組織幹部であるジン。
「お、お許しを…っ!!」
「名前を捕らえたと何故すぐに連絡を寄越さなかった?」
「ヒイイィッ!!」
答えによっては男の命はないというように、ベレッタの引き金に指をつがえて男の眉間に狙いを定めるジン。
「お、お許しを…...!!」
パンッ!!
最後の命乞い虚しく、無情にも乾いた音と共に今度こそがっくりと男の体が地に伏せた。
「使えねぇ…ウォッカ、死体は片付けておけ」
「へぃ」
汚いものを見るかのように男の亡骸を一瞥した後、踵を返してベレッタをしまうジン。
「ですが、FBIの連中も随分と無謀な事をしやがりますねぇ。まさか取引の現場を押さえるのに、変装もしてない名前一人を向かわせるだなんて」
「…いや、こいつはFBIの指示した事じゃねぇ」
「─── え?」
煙草に火をつけて紫煙を吐き出しながら、ウォッカの言葉にククッと笑って口端を釣り上げるジン。
「組織にとっては小せぇ取引だったから顔出すつもりもねえと思っていたが…こいつらにしては隠れていたFBIに勘付き、追い詰めるところまでいったんだ。
だがウォッカ…その現場に何で何の変装もしてない名前が危険を犯してまで飛び込んできたと思う?」
「え?いや、俺はてっきり仲間に傷を追わせない為、隠れていたFBIから受けた連絡を聞いて駆けつけてきたんだとばかり...」
「どうだろうな。
俺が思うに、あそこの現場には名前が危険を犯してまで来るほどの“何か”があったんだろうよ」
「“何か”?何かって、一体何があったって言うんですかぃ兄貴?」
「…さぁな。だが、裏をとる必要はありそうだ」
ジンは取り出した携帯を耳に当て、誰かの番号を呼び出した。
ほどなくして、艶っぽい女の声が受話器越しにその声を響かせる。
『あなたの方からかけてくるだなんて珍しいじゃない、ジン』
「前置きはいい。今日の取引、お前は行っていたんだろう?」
『あら、どうしてそんな事を思うのかしら?
あなた達が顔を出す必要もないと判断したくらいの小さな取引だったのよ?』
「俺に隠し事が出来ると思ってるのか。ベルモット」
受話器越しからもわかるジンの殺気立った声に、バスローブ姿のベルモットは持っていた自分のコードネームと同じ名の酒を置き、くすりと笑った。
『どこで掴んだ情報なのか知らないけど── だとしたら何?取引の現場にいたからといって、それをあなた達に報告する義務も特になかったと思うけれど?』
「細かいことはいい。俺が知りたいのは名前が駆けつけた時、何があったかだ」
それは疑問ではなく、確信だ。
そこには組織から身を隠していた名前がわざわざ危険を犯してまで前線に出てくるほどの“何か”があったのだという、確かな確信。
─── ほんと。どこまでも恐ろしく勘が鋭いのね、ジン…
『あなたが何の答えを期待してるのか知らないけど、一つあるとすれば子供がいた事かしら?
今回の取引は米花町にあるホテルのロビーでの受け渡しだったから、きっと宿泊客の誰かの子供でしょうね。
そこの少年が一人、危うく巻き込まれそうになっていた事くらいかしら』
「…そのガキの面は見たか?」
『見てないわ。取引と関係のない子供の顔を覚えておくほど、子供が好きな質じゃないもの』
「他に何か気になったことは?」
『ないわ』
その返答に舌打ちをしてベルモットとの通話を切るジン。
─── ガキ一人じゃ名前と関係があるはずもないか。
「行くぞウォッカ」
「へぃ兄貴」
釈然としないまま倉庫を出るジンと、その後を追うウォッカ。
…単なる思い過ごしだったか。
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