「いっ....!!」

「とにかく暫くは安静にして、動くのを控える事ですね。
もちろんその間の任務は一切中止。当然、お酒類の摂取もダメですよ。…全く。体内に弾が残らないよう避けられた身体能力はさすがといったところですが、名前さんにしては珍しく無茶な躱し方をしましたね?足もヒビが入ってますし、右腕は…ガラスか何かで?とにかく処置はしましたが、暫くは本当に安静にしていて下さいよ」


赤井に連れてこられたFBIの医務室にて。
顔なじみのその医師は一息に言い終わると、ため息をついて名前のいるベットの傍の椅子へと腰掛けた。


「あなたがこんな怪我をするだなんて…一体何があったんです?」

「え── っと、」

「黒ずくめの組織が行うはずだった取引の現場。
それを押さえる為にFBIの捜査員達がそこに向かったはいいが奴らの仲間の一人にそれを勘付かれ、銃撃戦になったとの報告を受けた事で飛び出して行ったんだったよな?」

「…ヨクモマァゴ存知デ」

「まぁ、その甲斐あってか捜査官の誰一人として死者はおろか怪我人すら出ずにいられたと聞いている」


部屋のドアに凭れるようにしてそう言う赤井に、名前は恨めしそうな視線を返した。

けれども、赤井はさらに追い打ちをかけるかのように口を開いて。


「一人で複数の連中の追っ手を全て引き受けたのには敬意を称するが…逆にお前自身が危うくその内の一人に捕らえられるところだったわけだが?」

「なっ…?!! そうだったの名前?!」

「やっ、そんな事は」

「何か間違ってるか?」

「間違ってない、です」


今まで黙って医師と赤井の説明を聞いていた同じくFBIの捜査官であるジョディ・スターリングは、全ての経緯を聞き終えた後それはもう驚いた様に声を上げた。

それを受けて気まずそうに顔を俯ける名前。


「まぁまぁ2人とも。
おかげで他の捜査員達が傷付く事は避けられたのだからね。…だが名前、今後こういった事は二度とないようにしてほしい。私だって本当に心配したのだからね」

「はい。本当にすみませんでした」


名前の謝罪を聞き、上司であるジェイムズ・ブラックは傷ついた名前の頭を優しく撫でた。


「もちろん暫くの間君には静養してもらうのはもちろんだが、それよりも気になるのは───

「名前の素顔の事ですね」


ジェイムズの言葉の続きを引き取り、深刻そうな表情を浮かべるジョディ。


「まさか組織に名前の顔が割れていただなんて───


ジョディが口にしたそれは、名前が自らの身を守るために毎日抜かりなく行っていた変装の事。
要はそれがバレ、組織に素顔が割れてしまったのだという事だった。


「名前の顔が割れる事のないよう、出来うる全ての情報はFBIで操作・書き換えを行っていて、一度たりともそれを怠った事はない筈なのだが…」


“とある理由”から幼少の頃より黒の組織にその身を狙われ続けている名前。

それ故FBIが保護する前から名前の身体能力は郡を抜いて高く、その中でも一番秀でていたのは変装という技術能力だった。

彼女曰くそれは、身を守る上でかなり重要度の高い自己防衛手段だったのだそうだ。


「名前は身長・体重、その他全ての情報に至るまで保護した時から今までかなり厳重にFBIが管理しているのよ?それなのにジンやウォッカといった幹部以外の連中にまで顔がバレてるということは──


ジョディのその言葉。
名前はその言葉に、誰より一番悔しそうに唇を噛んだ。

恐らく、十中八九黒の組織の幹部連中にも名前の素顔は割れていると見てまず、間違いないのだろう。

なんせ赤井が射殺した男ですら、名前の顔を見た瞬間にその名を口にしていたのだから。


「俺が変装もなしに飛び出していったりなんてしたから…せっかく今までジェイムズ達が必死に隠してくれてたって言うのに…!! 本当にごめん!!」


もともとの素顔がバレていた訳だから、今回の件は変装のありなしによる問題でもないのだろうが…

だが少なくとも、今回の件では変装をしてからあの場に向かっていればまだ、実際に名前があの取引の阻止に関わったという事まではバレずに済んだのかもしれない。
赤井により男の射殺は済んでいるものの、死の間際に男が電話していた話がジン達にも伝わっているとすれば──


「素顔が割れてしまっている事は痛いが、少なくとも今後も変装をし続けてさえいればまだ、連中が気付くことは抑えていけるだろう。
怪我の事もそうだが、名前には暫く赤井くんと一緒に行動してもらう。いいね?」


ジェイムズはそう言うと、確認するように名前と赤井の顔とを交互に見遣った。

今回の件では恐らくそうなるだろうと思っていた名前はしぶしぶながらも頷き、赤井も了承の証として同じように頷いた。

そして赤井は名前の方を向くと、


「組織の奴らだけでなく、危害を加えようとする全ての奴等からも護ってやるから安心するといい」


そう言ってニヤリと口元を歪めるもんだから、名前は反射的に膝上にあるシーツを顔まで引き上げてしまった。


「あら、 頼もしいわね」


その赤井の言葉にジョディが笑って名前を見るが、名前は複雑な顔をしていたのだった。



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