「ハァっ、ハッ…っ!!」
ガンッ!!!
「おいおい。仲間のケツ拭きてえんならツメが甘ェんじゃねぇの?」
「…うッ!」
無理矢理壁に押し付けられた体が悲鳴をあげるが、それに構わずニヤついた顔で少女の顔をのぞき込んで目を細める男。
「さ、わんなっ!!」
その男の視線から逃れるように顔を背ければ、首の骨が折れるんじゃないかというくらい強く顎をつかまれて上を向かされた。
「いっ……ッ…やめっ!」
「おい、お前まさか」
「離せって苦し…っ!」
「おいおいマジかよ。願ってもない展開だぜ」
少女の顔を確認した男の顔が一瞬驚いた後、その口元が嬉しそうに釣り上がった。
「FBIのクズ野郎を始末し損ねたと思って焦ったが── まさかその標的をすり替えてお前が出てくるとはなァ…」
──── 名前
「…....ッ!!!」
その言葉に少女は悔しそうに顔を歪めた。
─── やっぱり、やっぱり組織に素顔はバレてたのかよ…!!
「まさかお前の方から飛び込んで来てくれるとはな!あのお方もさぞ喜ぶだろうよ。来い!!!」
「やめっ !…離せっつってんだろ!!離せよっ!!」
自分の手柄にすっかり上機嫌になった男は名前のその細い手首を掴み、無理矢理引きずるようにして歩き出した。
名前は必死に足を突っ張ってそれを拒もうとするが、怪我してる上に体格の良い男の力に適うはずもなく、そのまま通りの方まで容易く引きずり出されてしまう。
「俺だ。今すぐ車回してこい!!とんでもねェ上玉を捕まえたんだよ」
「…くそっ!!」
携帯を耳に当て誰かと連絡を取ろうとする男の隙をつこうとするも、手柄に上機嫌な男がそれを許してくれるはずもなくて。
掴まれてる腕も痛くて名前の瞳に涙が滲みそうになった瞬間、
パンッッ!
「!!」
乾いた音と共に膝から崩れ落ちる男。
男は自分の身に何が起こったのかを理解する前に既に息絶えていた。
「…シュウっ!!」
事切れた男を見て状況を素早く理解した名前は斜め前の電柱、闇に溶け込むようにして佇んでいるFBI捜査官の赤井秀一を見つけた。
「お前が自ら囮になったと聞いてな」
「あ、」
名前を捕らえていた男は既に死んだというのに、何故だか男を撃ち殺した凶器であるコルトガバメントをしまわないまま殺気立って歩んでくる赤井。
それを見て自身の身の危険も感じた名前が身を翻そうとするも、あっさりと赤井によって退路を絶たれ、腰を引かれてしまった。
「とんだ猫だなお前は」
「だ、だってあれは… !」
「ほぅ?仲間を助けようと必死の行動だったのはわかるが、奴らが昔からお前を捕らえようとしているにもかかわらず、単独で敵の懐に飛び込んでいくとは…」
「あ、ちょっ !」
名前がさり気なく後ろ手に回して隠そうとした腕を掴んで持ち上げる赤井。
「おまけにこの怪我だ。治療が済んだら… 」
わかるな?というように凄んでくる赤井に、ついに名前は観念して項垂れた。
「ご、ごめ……え?!!」
突如として浮き上がる体。
赤井は片手に持っていたコルトガバメントをしまうと反対の腕1本で軽々と名前を肩に担ぎ上げ、停めていた車の方へと歩き出した。
それにはさすがに抗議の声をあげようとした名前だったのだが、今回の件では自分に非があるのは否めない為、しぶしぶと反論を諦めたのだった。
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