RRRRRR……
ピッ
「何の用だ?ジン」
『…今回の件。どうやらFBIの奴らも何やら嗅ぎ回ってるらしいじゃねェか』
電話越しに響く低い声。
ジンと呼ばれたその男はFBIが追う黒の組織幹部の一人であり、リーダー的存在を務める男だった。
「FBIが…?」
『ベルモットのやつが言ってたからそうなんだろうよ。もしかしたらその捜査会議にはオマエらの他にFBIの奴も誰か一匹、紛れ込んでくるかもしれねぇな…』
「─── まさか、名前が?」
男の口にした名に。
ジンが一瞬押し黙ったその意味を理解した男は、高らかに笑い声を上げた。
「フハハハハ!!そう言えば、せっかく捕らえた名前を取り引きの最中に逃げられたのはジン!!オマエだったな!!」
男のその言葉を受け、電話越しにも関わらずジンの殺気立った気配が痛いほど伝わってきた。
『…相変わらず減らず口が過ぎるようだな、アイリッシュ』
ジンにアイリッシュと呼ばれた瞬間。
男はピタッと笑うのを止め、パソコンの前で優雅に足を組み替えた。
「…まぁいい。少なくとも俺はそんなミスはしねぇからな。名前が姿を見せたら俺がすぐに捕らえて連れてきてやるよ。オマエの目の前になァ!!!!」
『…一度捕えられた名前をFBIの奴らがそう簡単に前線に出してくるとは思えねェが─── FBIに奴ほど変装に長けてる奴はいねぇ。可能性は十分にあるだろうよ』
「そう言えばオマエは一度、名前の変装を見破ったんだったか?」
『見破ったワケじゃねぇ。FBIの奴らとちょこまか動き回る女を付けていたら、それが名前の変装だったってだけだ』
「なるほど。噂通り名前の変装はベルモット同様、なかなかの腕前だと言う事か」
言いたいことは伝えたとばかりに通話が切れた後、アイリッシュはクククっと忍び笑いを漏らした。
─── 苗字 名前。
“あのお方”のお気に入りであり、組織が昔からその身を追っている一人の少女。
先週ジンが一度その身を捕らえたらしいが、どうやら別の取り引きで部屋を開けている間に、二人の護衛を倒して逃走を図ったらしかった。
「楽しみじゃねぇか…だか、どんな奴だろうと俺が捕らえて必ず“あのお方”の前に引きずり出してやるさ」
アイリッシュは不敵に笑んだ後、パソコンを閉じて部屋を後にしたのだった。
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