お風呂から上がった名前をベットに座らせた赤井は、まず初めに髪を乾かしてやった。

染めているわけではなく、もともと色素の薄い名前の髪は指通りも柔らかくて、赤井は本物の猫を撫でているかのような気分になる。

赤井がその柔らかい毛質を堪能していると、程よい温風により眠くなったのか、名前の首がかくんかくんと揺れ出して…


─── 本当に愛おしいな。


きっとこんな出会い方などではなく、名前が普通の女の子として生きていたとしたら、自分たちはこうした関係になる事もなかったのだろう。

飲み込みも早くて、仲間想いで。
その上運動神経も頭も良い名前はきっと学校一の人気者で─────


…こんな年の離れた俺とはまず、出逢う事もなかったろうからな。


本格的に赤井の方に寄りかかって眠りだした名前を、赤井はドライヤーの手を止めて優しくベットに倒して布団を掛けてやった。

体に残された傷の具合からして、昨日はまともに眠れる状態などではなかったのだろう。

赤井は名前が起きた時に少しでも怪我の状態が良くなっているよう、痛みに顔を顰めていた箇所には湿布を、傷のある箇所には消毒液や包帯を巻くなどの治療を施してやった。

そして寝室の扉を閉めてリビングに向かうと、取り出した携帯から一つの番号を呼び出す。


『どうだね、名前君の様子は?』


電話口から響いてきた声の相手は上司であるジェイムズで、彼は開口一番本気で名前の身を案じるかのようにそう問いかけてきた。


「今さっき落ち着いて寝たところです。
おそらく、彼らに捕まっていた時には落ち着いて寝られるような精神状態じゃなかったでしょうからね…」

『そうだろうな。私も先程“上”との話し合いを終えたところでね。3日間、彼女を休ませてもらえるよう許可を取ったよ』

「3日、ですか?」


名前の体に残る傷や精神面を考慮するに、休息期間がたった3日とはあまりにも少なすぎる。

彼女の事を実の娘のように想うジェイムズだって赤井と同じ見解のはずで、だとすればそれが意味するところは────


「名前に何か別の任務要請が?」

『!! …さすが赤井くんだな。今巷で起きている“広域連続殺人”は知ってるかね?』

「…現場に『麻雀牌』が置かれている妙な殺人事件の事ですか?今確認されているだけで5件、その事件が起きているといった事くらいまでは知ってます」


それと名前になんの関係が?と訝しげに問う赤井にジェイムズはしばらく逡巡した後、


『実は日本の警察組織がその連続殺人についての合同会議を3日後、管轄の刑事らを集めて本庁で開くそうなんだ。上からはそこに、変装した名前を潜入捜査させろとの達しが出てな…』

「潜入捜査、ですか?」

『FBIの掴んだ情報の一つによると、どうやらその事件の被害者の一人に、一般人を装った組織のメンバーが紛れ込んでいたようなんだ。そしてその人物はNon official coverの一人だったらしく、組織のリストデータを入れていたメモリーカードを所持していた人物らしい』


だが結局その人物は事件に巻き込まれ、けれどもメモリーカードはそのどの遺体の遺留品の中にもなかったのだという。

ここまで言えば勘の鋭い赤井には通じると思ったのだろう。

ジェイムズは一旦言葉を切って、赤井の反応を待った。


「なるほど…つまりそのメモリーデータを我々FBIが回収して日本の警察、もしくは奴らの手に渡る前に先に手に入れろって訳ですか」


そして今日本にいるFBIの中で“潜入捜査”としての変装に長けた人物と言えばもちろん、名前が一番の適任者であるのは言うまでもないだろう。


「…確かにそれを手に入れる事が出来れば、奴らに一歩近付く手掛かりにはなるでしょうね。ですが、組織の奴らもそのメモリーカードを狙っている最中(さなか)、名前を“潜入捜査”させる事に私は断固として反対ですよ。行くとしたら私かジョディのどちらかで構わないでしょう」


わざわざ危険を犯してまで名前を潜入させる必要はないし、体はともかくとしてもメンタル面の回復がたった3日で済むとは到底思えなかった。


『私ももちろんそうしてもらうつもりで、彼女は襲われた直後だからと抗議したんだが…上がどうしても彼女にやらせるよう言ってくるのだよ』


─── …どういう事だ?


『上と彼女の関係は私も詳しくは知らないんだが、どうやら組織絡みで何かありそうなのは確かなようだ。名前の素顔がバレ、捕まった直後だというのにおかしいと思うだろう?
だから明日ジョディと一緒にそっちを訪ね、直接名前君に話を聞いてみるつもりだ』

「…わかりました」


ジェイムズの言葉に了承を示し、通話を切る赤井。

その赤井の胸を言い知れない不安が渦巻いたのだった。

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