「…いいのか?」
真新しいシーツの上に名前を降ろして。
最終確認のように赤井がそう問えば、名前はコクリと頷いた。
そして一旦強く目を瞑ると、決意したように赤井を見て───
首に巻いてある包帯を巻きとった。
「!?」
赤井が驚愕に目を見開くが、名前は続いて自ら着ていたワンピースも脱ぎ、赤井の前にその白く美しい体を…その体にいくつも散らばる、“朱い華”をさらけ出した。
「───── ッ!!」
無数に散るそれは…
それを“残した人物”は───
「ジン……!!!!」
赤井の頭の中に、一瞬にして長い銀髪を靡かせる宿敵の相手が思い浮かんだ。
思わずその相手に殺意が湧き上がりかけるが、今はそんな場合じゃないと気付いてグッと拳を握り締める。
「名前…」
赤井は震える名前を優しく引き寄せると、強く強くその体を抱き締めた。
赤井のその温もりの中で名前は嗚咽する。
「逃げ、ようとっ…したんだっ!
シュウに抱かれてる時なんかと全然違くて…っ。…痛くて怖くて」
止めてと叫んでも、暴れても。
「むり、やりっ…酒、飲まされてっ! 耳とかっ…噛まれてっ…!!」
「もういい」
「…んっ!」
続けようとする名前の唇を塞いだ赤井は、名前の顔を自分の方に向かせた。
「…俺を見ろ、名前」
その言葉に濡れそぼった瞳を上げ、ゆっくりと赤井の方を向く名前。
赤井の真っ直ぐなその瞳が射抜くように、けれども優しい光を携え、名前の潤んだ視線と交わった。
「俺はお前が嫌がる事をするつもりはないし、乱暴にも扱わない。俺といたくないのなら離れればいい。…尤も、離れられたらの話ではあるが」
赤井は自分で言って自分で苦笑しながら、大きな手で名前の頭をくしゃっとひと撫でした。
「“大切な相手”を想ってする最大の愛情表現である行為を、俺は無理矢理になんて奪って失いたくはないからな」
赤井のその言葉に、想いに。
名前は一瞬驚いた様な表情をした後─── 笑った。
名前がジンに好きでもない相手をよく抱けると言った時、ジンは“征服欲”から抱けると言った。
だが、そんなのは間違ってる。
お互いがお互いを想い合う気持ちでなければそれは相手を、体を。
その全てを傷付け、地に落とす凶器と成り果てるのだから。
─── でも、シュウは違う。
シュウはいじわるはしても、名前の体を労わらずに行為を続ける事なんてしないし、名前の反応を無視して好き勝手に扱う事も無かった。
「…同じ、だ」
シュウが“その行為”をする理由と、名前がそれを受け入れる理由は同じで。
─── “大切な相手”を想ってする最大の愛情表現。
それならば名前がジンによる行為を赤井に埋めて欲しいと願うこの気持ちは…
「 ふっ、ぁ」
名前の思考を全て理解しているかのように、応えるように。
赤井の唇が名前の首筋を、ジンによって付けられた“痕”をなぞり、塗り替えるように新たな“痕”を刻んだ。
「シュ、ウ……っ」
赤井のその痕を涙しながら受け入れる名前。
湧き上がるこの気持ちが何なのかはまだ、よく分からないけれど。
「全部ぜんぶ。“俺色”に変えてやる」
そう言って強く抱き締めてくれる腕を。
頭を撫でて優しく口付けを落としてくれる、この人を。
ただ失いたくないと心の底から願った。
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