赤井と名前は現在、ジェイムズが新しく用意してくれた別のマンションの一室にとやってきていた。

本来であれば安室との話し合い(かは微妙なところだった)を終え、全員が揃ったところで今後についての話し合いをするつもりだったのだが── …平静を装う名前の表情の翳りをすぐさま察知した赤井により、話し合いは暫く期間を空けてからにする事としてその場はお開きになったのだった。


「…名前」


赤井が名前の名を呼んで引き寄せると、その背がビクッと震えたのがわかる。


「護ると約束したのにこんな事になって、本当にすまな── 「聞きたくない」


けれども名前は謝ろうとする赤井の胸をぐいと押すと、強い眼差しでそれを拒んだ。


「シュウのっ、せいじゃないから。俺がっ…俺が“変装1”の変装の頻度とか、顔がバレたと分かった翌日にすぐ外出だなんてのも、予定しなければよかっただけだから…!!」


男口調な言葉遣いだったり、時には危険も顧みずに一人で行動してしまう事も多々ある名前。

だが、それらは全て少しでも弱く見られない為だったり、組織に狙われている自分のせいで周りを巻き込まないよう対処しようとしている為であって……それ故彼女は普段から気丈に振る舞ってはいるが、本質は至って普通の女の子であるのだ。

だから今も“自分のせい” として赤井の謝罪を遮り、傷付けないようにと必死に言葉を紡いで……


─── そんな事より声を上げて、全ての苦しみを吐き出して。

泣いて、殴り付けてくれた方がどんなにマシなことか。


「だから…だからシュウのせいなんかじゃないから!!」


それなのに何一つとして赤井を責めようとしない名前。

優しい人間というのはその痛みを全て一心に背負い、相手の痛みも自分の痛みとして持っていこうとしてしまうものだから、一体どれだけ擦り切れ、摩耗してしていってしまうというのか。


「そんな顔をするな…」

「んっ…!!」


赤井は名前の目元から流れる涙をゆっくりと舌で舐め取ると、そのまま優しく口付けた。

そのまま舌を絡ませたらてっきり逃げるだろうと思っていたのだが、予想に反して名前の舌は赤井の舌を拒まず、それどころか戸惑いつつも逆に絡ませてきて。


ぴちゃ、くちゅ……


「んっ……はぁ…… 」


赤井の服を握り、口付けの合間にも一生懸命息継ぎをして応えようとする名前。

そのあまりの愛おしさから赤井は何度も角度を変えて名前の舌を吸い上げては、歯列をなぞった。

そして赤井がようやく唇を離した頃には、名前はその頭を赤井の胸へ寄せ、呼吸を整えるように浅く上下していた。


「これ以上は怪我に障る。だから今日はもうゆっくり休んで───


そう言って赤井が名前を抱き上げ、立ち上がろうとした瞬間、


ぎゅっ…


「?」


引っ張られる感覚を受けた赤井が視線を下にやって名前を見れば、名前は赤井の胸に顔を埋め、その服裾を強く握っていた。

それを一人にされるのが嫌なのだと思い、眠りにつくまで傍についててやるからと安心するよう宥めてやれば、


─── るの?」

「ん?」


聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声音で。
名前が何やら呟いたのが聞こえた。


「どうした?」

「……眠っ、たら…いなくなるの?」

─── 何?」


一瞬、聞き間違えなんじゃないかと思った。

何故なら組織に名前を奪われるという失態を犯した自分なんかと、名前は今日同じベットでなど眠りたくなどないだろうし、むしろ一緒になんていたくないだろうと思っていたから。

それなのに


「………たい」


更にまだ何かを続けようとする名前の口元に赤井が耳を寄せれば、


「シュウと……したい」

──── ッ!」


─── 今、何て……


赤井が驚いたように名前を見れば、名前は涙の溜まった瞳で見返してきて。

その唇が2、3度開いては閉じ、開いては閉じの動作を繰り返していたが、やがて一つの願いを口にした。


「…お願い。……抱いて、シュウ」


涙を流してそう訴える名前に。

赤井は再度優しく口付けを落とすと、今度こそ名前を抱き上げ、そのまま寝室へと向かっていったのだった。



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