「名前!!!」


安室からの連絡を受け、赤井が合流先に指定したのはジェイムズとジョディが宿泊する先のホテルだった。

そのホテルに入ってすぐ名前が呼ばれた名に顔を上げれば、慣れ親しんだ人物によって強く強くその身を抱き締められた。


「シュ、シュウ!…痛いよ、」


抱き締める赤井の力強さから傷付いた身体が痛んだ名前は、身を捩って慌ててその拘束から逃れた。

普段冷静沈着な赤井のそんな姿を見て隣に立つ安室も露骨に眉を顰め、鋭い一瞥を投げる。


「…ん?」


けれども名前が困ったように柳眉を下げて安室の腕を掴んで引いた為、安室は心配ないと言うようにその頭を優しくひと撫ですると、後ろで控えているジョディ達の方を指で指し示した。

それに気付いた名前が二人の方に向かい、その背が離れて行くのを見届けた安室は───

名前に向けていた笑顔を跡形もなく消し去ると、赤井に向けて口を開いた。


「本来であればこんな失態を犯したあなた達FBIに名前を預けるだなんて事は許し難い行為なんですけどね」

「…それについては反論のしようもない」


名前が無事背後にいるジョディ達に包まれるのを見た赤井もまた安室の方に向き直ると、腰を折って頭を下げた。

それを見て一気にカッとなる安室。


「…ッ!! そんな言葉や謝罪を聞くつもりはない!!
お前が名前を離したせいで…!そのせいで名前は……ッ!!!!」


本当は赤井のその胸ぐらを掴み、思いっきり壁に叩きつけてやりたかった。理性がなければそれだけでなく、複数回殴り付けてやりたい、とも。

赤井も名前の姿を一目見た時から…
名前の身に何があったかの大体の察しはついているのだろう。

安室は赤井の瞳の中に後悔の念が浮かんでいるのにも気付いたが、だからといって引くつもりなど毛頭なかった。


「名前を保護し、最初にその身に危険が及ばぬよう対処をしたのは、確かにFBIだ。
…だが今名前は日本にいて、本来であれば名前の身柄はこちらで引き取るべきであったのにも関わらず、FBIがその権限を振り翳し、我々公安も寄せ付けようとしない!!
それなのにッ、それなのにお前らFBIは組織に名前の素顔を知られたばかりでなく、こうも容易く奴らに奪われたんだぞ?!!」


人目もあり、必死に感情をコントロールしようと思う安室なのだが、体は意に反し、結局は目の前の男の襟にと掴みかかっていた。


「絶対に!!絶対に我々公安はFBIから名前を……!!!!」

「名前の身柄については、FBIと日本の警察関連とで協力体制にあるはずなんじゃなかったか?」

「ハッ!!そんなの形だけでしょう?」


「…その辺りで辞めにしてはもらえないかな」


穏やかでないやり取りを続ける二人の間に、突如として響いた威厳のある声。
そこには来日している赤井達FBI捜査官チームのボスである、ジェイムズ・ブラックの姿があった。

ジェイムズは安室の目を真っ直ぐに見つめると、深く深く頭を下げた。


「名前を組織に攫われたのは、間違いなく我々FBIの失態だ。それについては私の方から日本の警察、政府機関とも連絡を取り、謝罪と今後の方針についての話をさせてもらったよ。それについては直、君達公安の方にも連絡がいく事だろう。
…本当にすまなかった。そして、名前をこうして取り戻す事が出来たのも君のおかげだ。本当に感謝している」

── ッ!!」


FBIのボス直々に頭を下げられてしまっては安室も引くしかなかった。

安室は最後に赤井の顔を忌々しそうにひと睨みすると乱暴に掴んでいたその襟を離し、自身の車の方へと去って行った。

赤井はその安室の背が見えなくなった後、掴まれてシワになってしまった襟を正して今度はジェイムズに向かって頭を下げる。


「本当にすみませんでした」

「…いや。今回はそもそも組織の── ジン達があのマンションに目を付けている事に気付かなかった、私の責任であると言えるだろう。
どうやってセキュリティに引っかかること無く、やつらが名前の部屋にまで侵入を果たすことが出来たのかは分からないが…早急に手を打ち、対応を考えなければならないな。…日本の警察機関の手に、名前が渡る事のないようにする為にも」


ジェイムズのその言葉に、赤井は後ろでジョディと笑い合う名前の顔を見遣った。

そして自分たちは何があっても名前のあの笑顔を曇らせる事のないよう、護っていかなければならないのだと。
固く固く己の胸に誓いを立てたのだった。



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