組織での目的はさておき。
裏組織の多くはその収入源が大きな意味を持っている。

表の企業や会社などと違い、真っ当な稼ぎ方でないからこそ莫大な資金を得ることが出来るものの、払う犠牲も決して少なくはない。

中でも武器や薬などといった取り引きの他、カジノや株などといったものも裏組織の大事な収入源の一つであるのだが…後者の二つで莫大な収入を得る事は容易いことではない。
何故ならカジノで一山当てようとするなら超能力者かイカサマをして数字を当て続けるしかないし、株はそれよりも数式を導き出すことによって得られるものであるからカジノよりは稼ぎやすいが、これまた安易なことではないのだ。

人が人であり続ける限り、それは出来なくて当たり前だ。機械ですらそんな事は不可能なのだから。

── だが…




ドサッ


─── ッ!!」


昨夜同様、ジンによって乱暴にベッドの上に放り投げられる名前。

違うのはこの部屋のベットはキングサイズで、ジンの部屋のベットよりもかなり大きいというところだろか。


「いっ…た」


腰に力が入らず、上手く体を起こす事も出来ない名前の横に腰掛け、タバコに火を灯すジン。

きっと名前本人は知る由もないのだろう。
名前の両親の研究成果こそが今の名前であり、それにより名前は長年ずっと苦しみ続けられているのだという事に。


「憐れなガキだ」


ジンが先程駐車場で呟いた『数式予測及び、確実予想』

それは時に数式から導き出される株価であったり、更には法則も何もない人の手で投げられたダイスの目などを予想するなどといった予測の事を指し、そして名前にはそれが…ほとんど確実に近い状態で当てる事が出来るとされているのだった。

予測や、当てる上での条件等はデータを採取する前に名前が組織から逃げ出した為明らかになっていないが。


…そう。

つまり、それこそが名前が組織と繋がっている理由の核であり、それ故組織は名前を追い、そしてそれを知ったFBIが今までの長い間名前を保護し続けているという訳なのだった。



「ふざけんな…っ!!!」


ジンのその言葉を、今の自分の状況に対するものだと思ったのだろう。
名前はキッと尖った眼差しをジンに向け、枕の一つを力任せに投げつけてきた。


── まぁ、当たりゃしねぇが。



「今シて欲しいのか?」

「触んなッ!!!」

「口の聞き方には気をつけろ」

「…うっ!!」


ジンは素早く伸ばした手で名前の顎を強く掴み、冷たく見下ろした。

だが、名前の手はそのジンの手を払おうとしない。
昨夜の経験から、それをすればどうなるかといった事に気が付いたのだろう。


「クッ…学習能力の高い奴は好きだぜ?」


それを見て喉を鳴らすジン。
親指を名前の唇に這わせ、開かせると、深く深く口付けた。


「…!! やっ、めっ…」


反射的に引こうとする名前の頭をもう片方の手で固定し、逃げ惑う舌を強く吸った。

これにはさすがに名前もジンの胸を叩いて抗議するが、ジンは止めようとしない。


「ゃぁ…っ!……んっ、ふっ」


息継ぎする間も与えられず、ひたすらジンにより口内を蹂躙され、歯列をなぞられる。


「……ぁッ、っ…」

「随分と物欲しそうな顔してんじゃねぇか」

「…!」


ようやくジンが離れ、体に酸素が戻ってきた頃には名前の瞳はその甘美な痺れから潤み、頬は蒸気していた。


「続きは帰ってからたっぷりとしてやるよ」

「?! …いやだっ!」


名前にそう告げて外で待たせてあるウォッカの元へと歩き出すジンに、名前はままならない呼吸の合間から叫んで首を振った。

だが名前の抗議の声虚しく、ジンは一切振り返ることなくそのまま進み、ほどなくして寝室だけでなく部屋自体からも出ていく音がした。

名前は悔しくて力任せに残りの枕も全て放ると、痛む腰をなんとか動かして窓際へと移動する。

そして眼下に広がる景色などには目もくれず、高さだけを目測。
ウォッカが車で最上階と言っていたその部屋の高さはおそらく、ざっと見ても優に200m以上はあるだろう事が窺えて。


「…くそっ!」


名前は窓からの逃走を諦め、一縷の望みを託して応接間、リビングルームと抜け、ジンが出ていったドアの方へと向かった。


ガチャ…


ドアを開けてすぐ、その両脇に佇んでいる2人のスーツ姿の男が目に入る。


「何かお困りの事が?」


そのうちの一人が名前に声をかけてきたので、名前は油断させるように微笑んで慎重に口を開いた。


「えっと…ちょっと外の空気を吸いに、散歩しに行きたいなーって」

「申し訳ありませんが…この部屋からは一歩も出さないよう、言付けをされておりますので」


ジンが自分の部屋の前にと配置させた男達の事だ。
当たり前の事ではあるが逃がしてくれる筈もないのだろうし、怪我もしている今の自分が一筋縄で勝てるような相手ではない事も当然分かっているが…

一か八か。何もしないよりはまだ、懸けてみる他ない。

名前は昨夜と今朝の行為のせいで力の入らない足腰に無理矢理力を込めると、目の前の男の首目掛けて思いっきりその足を振り上げた。


「…なっ?!!」


振り上げた足は見事に直撃し、喉頭隆起部分を打たれて呼吸困難に陥った事で、男の体はバタリと床に倒れ込んだ。

そして間発いれず、怯んだもう一人の男のみぞおちにも拳を入れようとするが───


「…っ!!」


男の反応は素早く、名前の拳は男の開いた掌により衝撃を受け止められた。

そのまま握りこまれる前に名前は素早く拳を引き、男と距離を取る。


─── こんな相手、普段であれば簡単に倒せるのに……!!!


「手荒なことはしないようにとも言付けられております。速やかにお部屋にお戻り下さい」

「組織の人間でもないのにっ…随分と御丁寧な事だよね。でもね、俺ここにいたくなんてないの。だから、どいて!!!」


そう言って名前がギっと殺気を込めた瞳で睨みつけると、男は無言で構えの姿勢を取った。


─── くっ!
こっちはジンのせいで、これ以上動き回るのもキツイってのにッ!!!


だが、ここで引けば間違いなく戻ってきたジンにより再び襲われ、またあの苦痛を味あわせられるのだろう。

それだけは絶対に嫌だ!!!だから、


「どけよッ!!!!」

「それは聞けない願いで────

「…え?」


突如として前のめりに倒れる男。
もちろん名前自身は何もしてないわけで…



「……ベルモット!!」



倒れた男の背後から現れたのは、腰までの長い金髪に整った顔立ちを持つ、ジンと同じ黒の組織幹部の一人であるベルモットだった。


「あら。ずいぶんと弱々しい姿になってるのね」

「…っ!」


ゆったりとした足取りで近付いてくるベルモットに後ずさるも、背後には今し方名前が出てきた部屋しかなかった。


「?!」


そう思ったのだが────
名前の視線の端、そこにはもう一つ部屋があることに気付いた。

そう言えば先程のウォッカのセリフの中にも、今夜はジンとは別にベルモットも泊まる事になっていると言っていような気がする。

何故今ベルモットが見張りの男を倒したのかはわからないが───

ベルモット相手に、今の自分が敵うはずもないことくらいは分かる。

それ故、名前は悔しそうにまた背後の部屋を見遣った。


「俺を、またっ…!! 部屋に戻して、ジンのやつとヤらせる気かよッ…!!!」

「抱かれたの?ジンに」


知ってて聞いてくるベルモットに、名前は鋭い視線を返し、ギリッと歯を噛みしめた。


「その分だと随分酷く扱われたようね…
ジン、あなたの事となると加減が出来ないみたいだから」

「?! …触んなッ!!!」


立ちすくむ名前の目の前まで来たベルモット。
何をするつもりなのかと揺れる名前の瞳を面白そうに見ながら、ベルモットはその細い指先で名前の首元に散る華をなぞった。


「…妬けるわね。
あのジンがこんなにも女に自分の証を刻むだなんて…」

「や、めっ…!!」


名前の髪をかきあげ、その耳の後ろにも散る朱い“証”を見て目を細めるベルモット。

昨日ベルモットにも届いていた『あのお方』からの同時メール。


─── ジンの方には何て届いていたか知らないけど、名前は『あのお方』のものであるにも関わらず、ジンがここまで強い執着を見せるだなんて…ね。



「行きなさい」

「……は?」


名前の髪から手を離したベルモットが指し示す先には、一基のエレベーター。


「バーボンならこの下のジュニアスイートにいるわ。部屋番号は102」

「…な、んで」


困惑したように名前が問いかけるが、必要な情報を渡したベルモットはそれ以上の会話を続ける気はないらしく、背を向けて自身の部屋へと歩き出してしまった。

ほどなくして走り去る音が聞こえ、名前がいなくなった事を確認したベルモットは自身の口元に引いた────


名前の首元に散らされていたのと同じ“朱”い色のルージュをなぞると、今度こそ自身の泊まる部屋へと消えて行ったのだった。



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