「…ッう!」

「相変わず容赦がないねぇ!ジンは」


ウォッカの運転する車で連れてこられた某倉庫にて。

ジンに捕まえられている名前の姿を見て、左目に蝶のタトゥーのあるキャンティはやれやれといった風に首をすくめた。

捕えられても尚、暴れた続けた名前はジンによって散々痛めつけられたようで。
はだけたパーカーから見える名前の白い肌には所々に痛々しい跡が走り、口元には微かに血も滲んでいた。

それでもまだ、その大きな瞳に反抗的な光を湛える名前ははたして、それがジンの加虐心に火を付けているのだという事に気付いているのかどうか。


「虐めたくなるのも分かるけどさァ!
あの方が知ったら怒るんじゃないのかい?」


キャンティが2人に近寄り、血の滲む名前のその唇を卑猥な仕草でなぞると、それによって名前の顔が痛みに歪んだ。


「…?!!」


そしてあろうことかキャンティは名前のその血のついた指を自身の口に含み── 舐めた。

それを鋭い眼光で射抜くジンに、キャンティがキャハハッと甲高い笑い声を上げる


「ちょっとしたジョークじゃないのさ、ジン!
でもさ、あたいだって名前のこんな姿見たら…興奮してイッちまいそうさァ!!」


同性である名前も範囲内というように厭らしい目で見下ろすキャンティを、ジンは鋭く睨みつけた。


「それ以上話すと本気で撃つぞ、キャンティ」


ジンのその低い声音にキャンティが何かを言いかけようとした瞬間、


『二人とも。今はそのくらいでよしてもらおう』

「!」


倉庫の片隅に置かれたスピーカーのようなものから、まるで今まさにこの状況を見ているかのようなタイミングで声が響いた。
そしてスピーカー越しなのにも関わらず、まるで名前の姿も見えているかのようにその名も紡ぐ。


『会いたかったよ名前。…あぁ、君自身はもう覚えていないかもしれないがね』


正体の分からない人物から名を呼ばれ、ハッとしたようにスピーカーを見る名前。


『私はずっと君を探していたんだよ…残念ながら今君をこの手で抱きしめることは出来ないが、時がきたら必ず私は君の前へ姿を現し、そしてもう二度と手放すことは...』


男のその声に、名前は訝しむように眉を顰めた。


─── もう二度と手放さない? 一体何のこと?


それは一度でも自分がこのスピーカー男の元にいたという事を指しているのだろうか?

疑問符を浮かべる名前が見えているのか、男は焦れたように先を続けた。


『今は詳しく話してあげる事が出来ないが、君はもう何年も昔から私だけのものだよ……そう、私だけの大切な──


「ふざけるなッ!! 私は誰のモノにもなった覚えは……ッ!!!」


反論しようと口を開いた名前はしかし、ジンが掴む腕に力を込めてきた為、続けられなかった。

けれども男は名前の言いたい事が分かったのか、今はまだそれでいいと諭すように優しい声音で続ける。


『今はまだ、わからなくて構わないよ。だが、いずれわかる時がくる…
それまで君の事はそこにいる彼らに任せる事にするから── 名前には彼らと共に行動し、組織に君のその『力』を尽くしてほしい。
そして全ての事柄に片がついたらその時は…その時には必ず、私が直接君を迎えに行く事とするよ』

「かっ、…!」


勝手な事言うな!!と叫ぼうとしたが、またもやジンがそれを許してくれるはずもなく、名前は再び駆け抜けた痛みに呻いた。

そしてそれ以降、始まった時と同じようにして唐突にそれは終わったのか、スピーカーからは一切何の音もしなくなってしまった。

訳が分からないというように首を振り、離せよっ!!とジンの手を振りほどこうと暴れる名前。


「あんなやつ知らないッ!!お前らが昔から俺のことを狙ってたのは知ってるけど、今のやつが何を言ってたのかなんて俺には…うッ!!」

「あんなやつじゃない、『あのお方』だ」

「そんなの知るかよっ…!!!」


あくまでも反抗的な名前の態度に、ジンが再度また痛めつけようと手を伸ばしたその瞬間、


「!!」


それに静止をかけるよう、倉庫内にいる全員の携帯が震えた。

それに気付いたジンは片手で名前の動きを制すると、ポケットから今まさに着信を告げた自身の携帯を取り出して開く。


そして───


「…ククッ」

「ちょ、ジンのとこには一体何て書いてあったのさ?!」


どうやらそれは全員に一斉に送られてきたメールのようだが内容はそれぞれで違うらしく、含み笑いをしたジンにキャンティが問い詰めるように叫んだ。


「…あぁ。あのお方から俺への命令は──


そしてジンの口端が上がったかと思うと隣に立つ名前を見、酷く残忍な笑みを浮かべた。

その視線に本能的に危険を感じた名前はジンから距離を取ろうとするが、


「…やめっ…!!」


今度こそ名前を掴んで引き寄せたジンは、無理矢理その顔を引き寄せ、耳元で残酷な一言を告げた。


「てめェの躾係だとよ、名前…」



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