「視界は常に僕にしろ」
「…また始まった」


視界は常に僕にしろ


リドルはきっと、月に一度おかしくなるんだ。確か先月は光の早さで会いに来いって言っていたし、その前はなんかもう神だって呟いていた気がする。それが彼にとって凄く本気で言っていることらしいからタチが悪い。

「リドル、最初に言っておくけど無理だからね。で、今回はまたどうしてそんなこと言い出したのかしら?」
「…君がいけないんだ、君が」
「私のせい?」
「君今日アブラクサス・マルフォイと話してただろう?」
「うん、だって同じ寮だし話しかけられて断る必要も無かったし」

それだよ!と私を指さすリドル。えっと、人に指をさしちゃいけないって教わらなかったかな?

「僕をのけ者にして二人で……楽しそう、だった」
「リ…リドル?」

いつも人を見下したような笑顔を顔に貼り付けている彼が今は…歪んだ表情をしていた。赤い目がギラギラと輝いていて、彼の怒りの感情が突き刺さるように感じられる。初めて彼を、恐いと思った。沈黙に耐えきれず、一歩後ろに下がる。リドルも一歩前に進み出た。そのまま歩みを止めず近づいてきて、私を壁に追い詰めた。リドルの切れ長の目が私をまっすぐに見つめてくる。お互いの息がかかりそうなくらいに近づいて、彼が目を細めた。

「ナマエ、」

声を出そうとしたけど、緊張の余りかすれて思うようにいかなかった。どうしよう、なにか話さなきゃ。話さなきゃいけない、のに。

「ナマエ…」

ああ一体今日はなんなんだ。天変地異の前触れ…いや、これが天変地異なのかもしれない。今わかるのは、とにかく私は今日この世界で一番危機に瀕しているってこと。

「これで僕しか見えない。僕以外は何も見えない…」

狂気的な…彼の顔。恐いなんてものじゃない。けど、同時に愛しいと感じるなんて。私まで狂ってしまったんじゃないか、

「…なんて、ね。」

リドルが言った。

「へ?」

なんとも間の抜けた声だったけど、それほど驚いたんだ。だってリドルが自分にメリットのない嘘をつこうとしているから。

「冗談だよ。みんなお芝居さ…ちょっとからかいたかっただけ、」
「嘘つき」
「…え?」
「リドルの大嘘つき!」
「…君に嘘つき呼ばわりされるなんて心外だな」
「だってリドル、さっきの本気だったでしょう?」

君に僕が本気か本気じゃないなんて、と冷静に抗議しかけたのを手で制止した。

「リドルがふざけたことを言ってるときは、大抵本気だもの」

思わず笑みがこぼれた。そう、この人はめちゃくちゃなことを真剣に言う。いつだってそうだ。そんな彼に振り回されて生活しているのだから。リドルも小さく吹きだしてから笑った。私を見る彼の目が、優しくなる。

「聞いて、リドル。」

一間置いて、ゆっくりと言った。

「私はね、いつだってあなただけを見ているのよ?」


視界は常に僕にしろ


(やきもちですか、リドルさん)
(やきもち?餅を焼くのかい?)
(ふざけないで、)


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