この学校を卒業したら、ナマエ・ミョウジとの一切の関係を断ち切ろうと心に決めた。

「レギュ、ぼんやりしちゃってどうしたの?」
「なんでもないですよ」
「……ふーん。さっきから十回以上は名前呼んでるのに全然気付かないから吸魂鬼に魂吸われちゃったのかと思った」
「冗談でもそんなこと言わないで下さい。気持悪い」

ナマエは僕に、それこそ無償の愛を注いでくれている。けれど、僕が少しでもそんな素振りを見せれば彼女はきっと僕に依存してしまう。そうなれば、僕の何もかもを知ることになるだろう。心の中に渦巻く欲望、醜い嫉妬心、言葉では言い表せないドス黒い凶悪な感情も…全て。別にそれらをさらけ出すことを恐れているわけではない。それらの存在を認め、彼女が僕を受け入れてしまうであろうことを恐れているんだ。この感情は決して許容しているものではないと、分かっている。だからこそ彼女に、ナマエに、知られたくない。己のせいで彼女の感覚が歪んでしまうことを僕は望まない。

「それで、何か僕に用があったんじゃないんですか」
「あ、そうそう。レギュは進路どうするの?卒業まであと二日しかないのにちっとも教えてくれないよね」
「秘密です」
「えーなんでー!」

僕は、弱い。弱い故に彼女を守るという行為に恐れを抱いている。彼女の家は僕と同じ純血だけれど、ヴォルデモート卿率いる闇の勢力に抗う一族だ。いずれ闇の帝王は彼女の存在に気付き干渉してくる筈だ。類い希な才能を持つ彼女の力を手に入れる、或いは排除しようとするだろう。そんな時……僕は彼女に全てを話すことが出来るのだろうか。ナマエを守りきることが、出来るのだろうか。

「話したらきっと、あなたは僕と同じ進路を希望するに決まってるからです」
「う、まあ……仕方ない感じ?」
「どんな感じですか」

今まで築き上げてきたものを、全て崩してきた。友人も後輩も、教授でさえも寄せ付けることなく断ち切った。孤独は嫌いじゃない、寧ろ一人でいるのは楽だった。

「……だってレギュと一緒にいたいし」

それでも、ナマエだけは手放せなかった。どんなに突き放そうとしたって、彼女はどこまでもついてくる。それが僕に甘えを許した。

「……僕も一緒にいたいですよ」
「それなら、あ」

柔らかい、彼女の体躯。腕の中の温もり……忘れてはいけないもの。けれどナマエの優しさに、想いに、甘えてはいけない。そんな生半可な意思では、彼女を守れないと分かっているのに。

「どうしたの?レギュ」

これで、ナマエを抱きしめるのを最後にしよう。そしてこのくちづけを、僕がナマエにする最後のくちづけにしよう。

「キスしても、いいですか」
「……そういうのは聞かなくても良いの」

最後のくちづけは、涙の味がした。驚いたことにそれは、僕の涙だった。泣いていることに気付かないくらい、ナマエが愛しくて悲しかった。例えどんなに離れていても、僕は彼女を守る。傍にいることが叶わなくとも、僕が彼女を守る。

「すみません」

それくらい僕も君を愛しているんだよ、ナマエ。

「……大好きだよ、レギュラス」

戸惑いながらも僕の頭を撫でるナマエに、誓った。誰人も手折ることの出来ない意思を持つことが出来たら、必ず君を迎えにくる。いつだったか草原に一輪咲いていたあの花のように堂堂と胸を張れるようになれたら。イエローサルタンのように、凛と。

君を守れる力を得たら、迎えにくるよ。
……だからもう少しだけ待ってて。



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