「お前の望みは何だ」

そう言って膝の上に座らせた私を後ろから抱き締めた。ヴォルデモートさんは、夜眠る前にいつも必ず同じ質問をする。お前の望みは何か、と。そしてその度に私を抱く細い腕に手を添えながら彼にこう答える。望みなどないと。あなたが傍に居てくれるだけで良い、と。純粋にそう思っていた。愛する人が、傍にいる…それ以上何を望むと言うのか。そうすればヴォルデモートさんは、私を抱えてベッドに寝かせ口付けを落とし隣に眠る。けれどそんな習慣化された日常にも、終わりは訪れる。幸せは長く続かないとは良く言ったもので、まさにその通りだった。敵陣営である不死鳥の騎士団と闇の陣営の戦いが激しくなるにつれて、私と彼の時間は徐々に減っていった。始めは、寂しかった。とても、とても。それでも屋敷にいる死喰い人の人達が世話を焼いてくれたし、そんな生活にも慣れた。その代わり寂しさは次第に、不安に変わっていった。彼の身に何か起こったら…屋敷にぬくぬくと暮らしている私には戦場の凍り付くような空気に触れただけで卒倒してしまうだろう。そんな場所で毎日、毎日毎日毎日彼は戦っているのだ。不安で胸がいっぱいになって、押し潰れてしまいそうだった。だから、だから。

「どうしたナマエ?今日はやけに無口だな」

久しぶりのヴォルデモートさんの腕の中。もうこの腕を、私を抱き締めるこの腕を離したくない。彼の居ない日々を過ごして、自分の中の望みに気付いた。頬を撫でてくる指もほんのりと熱が伝わる体も細くて綺麗な黒髪も耳をくすぐる低音も、全てが愛おしい。

「お前の望みは何だ」

待ち望んでいた言葉をかけられ、思わず笑みが浮かんでしまう。いつもと違う雰囲気に感づいたのか、それとも彼は全てを悟ってその問いかけを吐いたのか。ヴォルデモートさんは膝に乗せた私を、対面するように座らせた。

「望み?」
「ああ……そうだ」

わざとじらすように間を作れば、彼の眉間にシワが寄っていく。気が短い彼は、きっと苛立っているに違いない。傍に居てくれるだけで良い、それが彼の満足する答えだ。でもそれでは、私が満ち足りないと…気付いてしまった。

「じゃあ……これからもずっと、傍にいて抱き締めて」

そっと彼の胸に手を置く。微かに手に伝わる鼓動に更に耳を寄せる。規則正しい鼓動に少し安心した。

「無口だと思えば急に甘えて……」

頭を撫でる大きな手のひらに、そんな言葉を添えられて頬が熱くなるのを感じた。凄く幸せだと思った。望みは何だと聞かれて何も思い浮かばなかったのは、幸せだったからなんだ。あなたの腕に抱きしめられて過ごすあの瞬間が、凄く幸せだったから。でも今、抱きしめらるだけじゃ満たされない私は……欲張りですか。あなたにもっと触れて欲しい、隣に居て欲しい。名前を呼んで笑いかけて欲しい。このままどこにも行かずに、ここにいて欲しい。

「傍にいて……」
「ナマエ」

くいっと上げられた顎が固定され、彼の唇が私のそれを塞いだ。何もかもを奪い去るようなその口付けは酷く甘かった。

「お前が望むなら、永久に」

私の心を揺さぶる言葉は、必ずしも守られる約束ではないと知っている。それでもどうしようもなく嬉しかった。泣きたくて笑いたくて、不思議な安堵感があった。それから彼が私に望みを問うことは無くなった。


傍にいて抱きしめて
永久に、なんて。
有りもしない事を囁く唇を拒否する勇気が、その時の私には無かった。


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