「ねぇねぇマリー、あたしにはどんな花が似合うかな」
「花?」
「マリーのお家に素敵な庭園があるじゃない。マリーも花の種類たくさん知ってるんだろうなぁと思って」
「……母上の趣味だ。私はあまり詳しくない」

Flower

嘘だ。花の種類に詳しくないなんて。幼い頃から多くの花を見てきた。南国の花や東洋の花、極寒の地でしか花開かない珍しい花まで。今でも花に触れない時間は無い程、花は身近な物だ。――彼女を花に例える、か。考えたことも無かった。同寮の先輩であるルシウス・マルフォイなら日常的に女を花に例えて甘い言葉を吐いているかも知れないが。生憎自分には女を喜ばせるようなロマンティック思考は無い。そんな女に媚びるような行為、御免だ。それでも……そうだな、考えるだけならしてやっても良いのかも知れない。メジャーな花と言えば……薔薇か。いや、赤い薔薇など彼女には似合わない。あの特有の毒々しさを持った赤い色。決して自分に触れさせようとはしない、孤高の花では。水仙や百合も美しいが、彼女の気高いそれには叶わない。愛らしさで言えば菫や鈴蘭などだろうか。……否、道端に咲いている花など彼女に相応しくない。温室育ちだが決して外の世界の雨風にも負けない。それでいて手折ることすらできない凜とした花。それが、彼女だ。私は、ナマエほど美しい花を見たことが無い。美しく、それでいて可憐な花を……

「マリー?もう……マルシベール!」
「ん、あぁ」
「もう……急に黙っちゃって。あ、もしかして考えてくれてた?」
「まあな」
「この子ったら珍しく素直」
「呪いをかけ「ごめん」

側に寄ってきたナマエを膝の上に導く。戸惑いながらも嬉しそうに笑顔を見せたナマエが、純粋に愛しいと思った。生糸のように柔らかな髪を指で弄ぶと、ナマエが体を寄せてくる。髪の毛に鼻先を埋めると、彼女はくすぐったそうに身を捩った。

「ナマエ、お前を花には例えられない」
「……どうして?」
「花に失礼だ」
「マリーの意地悪」
「意地悪で結構」
「……でも、好き」
「私もだ」

そうしてそのまま真実を伝えず、十数年が経った。それこそ花のような笑顔でマリーと私の愛称を呼んでくれるナマエは、もうどこにもいない。幼い頃庭に咲いていた美しい花々のように、既に過去に散ってしまったのだ。せめてもの救いは、その死に際が蕾が花開いたばかりの花の様に美しかったこと。今でも鮮明に思い出せるほどに。そう。咲いて、散った。私の手によって散らせた。萎れる前に……腐ってしまう前に、綺麗なまま散らせたのだ。お前を花に例えられない理由、それはナマエがどんな花よりも美しいから。

「ナマエ、やはりお前に見合う花は見つからなかった。だからせめて」

私は花を咲かせ続けよう。お前が最後に咲かせた花と同じ花を、穢れたマグルや愚かな魔法使い共が咲かせられるかは疑問だが。それならそれで、綺麗な花が咲くまで続ければ良い。この手で咲かせ続けよう。
ナマエを散らせた、この手で。


Flower
花は咲くがいずれ散る。だが勝手に散るのは許さない。私がこの手で、散らしてやる。


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