お菓子くれなきゃ
悪戯しちゃうぞ



「trick or treat?」

そんな言葉が今日は学校中から溢れていた。そう、今日はハロウィン。本来のハロウィンの目的も知らないような浮かれた奴らが何人も仮装して歩き回っていた。お菓子か悪戯か、なんて言葉もふざけている。どうせ選ばせるなら生きるか死ぬかくらいの選択肢にしたらどうなんだ。それならそのふざけた格好も少しくらい恐れられるだろう。などと心の中で毒づきながらトム・リドルは穏やかな笑顔を振りまいていた。周りによってくる女子を言葉で軽くかわし、悪戯をしかけてくるような不届き者な輩には事故に見せかけて鉄の制裁を食らわしてやる。それでもいい加減疲れてきて、最終目的地だった図書館を諦め談話室への道を引き返した。なるべく、人通りの無いところを。と薄暗い道ばかり選んで歩く。それでもハロウィンの影はあちらこちらに潜んでいた。例えば、いつもは殺風景なろうそく周りにくりぬかれたかぼちゃが置いてあったり(イライラしていたのでいくつかレダクト)。早く、早く、部屋に戻ろう。広間から漂う強烈な甘い匂いに吐き気を催しながらリドルは早足になった。最早彼はハロウィンに得体の知れない恐怖すら感じていた。ふと、頭の片隅に浮かんだ彼女の顔。もし――もしここで彼女に出会ったら。厄介だ、凄く厄介だ。行事大好きな彼女なら絶対に仮装をして今日のハロウィンに参加しているはず。見つかったら、何をされるか…

「リドル発見!」

…どうしてだろう。厄介事はいつも僕の所に飛び込んでくる。歓迎なんてしていないし手も差しだしていないのに。ぎゅう、と本当にナマエに抱きつかれて我に返る。改めてナマエを見ると彼女は頭から二つの三角の耳を生やし、スカートの下からは尻尾まで覗かせていた。彼女も案の定ハロウィンなんかに毒されていたのだ。しかも黒猫の仮装なんて。

「ナマエ、まさか君まで僕にトリックオアトリートなんて言う気じゃないだろうね」

聞こえるように舌打ちしてからそう言うと、ナマエはつまらなそうに僕から離れた。

「えー、ダメ?」
「ダメだ。今日はもうそんな言葉聞きたくないから」
「えー」
「えーじゃない」

子供を叱るようにじっと目を見つめる。そうすれば頭に生えた真っ黒な猫耳と反対に、薄い色素をした彼女の大きな目が負けじと見つめ返してくる。二人きりの廊下でしばらく見つめ合い(睨み合い?)、両者譲らず佇んでいた。

「ナマエ」

張り詰めた空気を壊さないように名前を呼ぶ。その甘美な響きと静かに頬に添えられた手を、ナマエは卑怯だと思った。

「…仕方ないなあ」

あまり仕方なさそうとは思えない言いぐさで名前が呟く。諦めたか、とリドルは内心ニヤリと笑う。が、ナマエは諦めていなかった。顔を上げたナマエは凄く良い笑顔をしていた。

「それじゃあ、お菓子か悪戯かリドルに選ばせてあげる」
「…は?いや、あのさ」

きみ、ぼくの話聞いてた?寧ろそれ全然変わってないし、なんかもう泣きたい。ハロウィン恐怖症になりそうだ。


お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ
Trick or Treat!


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