「ねぇ、どうしても行っちゃうの?」
「ああ……前から決めていたことだろう」
「そうだけど、やっぱり嫌だ」

聞き分けがない、という風にヴォルデモートが首を振る。心なしかその赤い瞳はいつもより悲しそうに見えた。彼は今日、ポッター夫妻の家を襲撃する。余計な心配は愚かだとヴォルは笑うけど、嫌な予感がした。とても、とても嫌な予感が。去年ポッター夫妻の間に生まれた男の子、ハリーが将来ヴォルデモート卿を脅かす存在になるという予言が下されて一週間。ついにそのハリーを殺しに行く日が来たのだ。予言では将来と言われていた。けど、そこからじゃハリーの存在が今の彼を脅かさないと言う確信は持てない。ヴォルは無敵だって、だから大丈夫だって、笑い飛ばしたいくらいなのに。頭によぎる良からぬ想像がそれをさせてくれない。もしも彼が死んでしまったら?俯いて何も話さなくなった私を見てヴォルが笑う。

「俺様を心配しているのか」
「だって……」

次の瞬間、私は強い力に引き寄せられてヴォルの腕の中に収まっていた。彼の冷たい手が頬に触れ、いつの間にかこぼれていた涙を拭う。彼の胸に顔を埋めると手の冷たさに反した暖かい体温が伝わってきた。しばらくするとヴォルも私の髪に顔を押し当てるようにして俯き、口を開いた。

「俺様は必ず戻ってくる」
「……必ず?」
「必ずだ」

背中に回された手にぎゅっと力がこもったかと思うと、ヴォルが離れた。私の行き場のなくなった手が空を切る。彼が言った。

「少しの間、待ってろ」

思い返せばそれが私とヴォルが互いの温もりを感じる最後の機会になってしまっていた。


伝わる熱が愛おしい
私は今でも、あの温もりを覚えている。


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