「やあ、スニベリー!新しい呪文を覚えたんだ。試されてくれるよね?」
「ポッター……」
「それ!」
「きゃああああ」
「「ナマエ……?」」


スパイラル
=悪循環


「大丈夫かい?ナマエ」

先ほどポッターがかけた新しい呪文とやらにかかったのは僕、ではなくて少し鈍くさいことで有名なグリフィンドールのナマエ・ミョウジだった。

「確実にスニベリーを狙ったはずなのに、どうして君が……」

呪文をかけた当人でさえ困惑している。目の前でうずくまるナマエは白い粘着質のペンキのようなもので染まっていた。あれが僕にかかっていたら次の日からなんて馬鹿にされていたか。無言で立ち去ろうとも思ったがそうするとポッターがうるさいだろう。

「……僕はもう行くからな」

一応一声かけ、しゃがみこんだ二人を残して寮に戻った。きっとポッターは減点に罰則。いい気味だ。次の日、グリフィンドールとの合同授業。別にそれは構わない。問題なのは……なんてことだ、例の彼女が僕の隣に座ったということ。おまけにポッターが最大級の恨みをこめた目でこちらを睨んでいる。

「なんのつもりだ」
「何が?」

透き通るような声だった。か細くまとまっているようで凛とした声。何のことか分からない、とでも言う風に首を傾げた彼女は微笑んでいた。ほほ、えんで?何で笑ってるんだこの女は。本来ペンキでベタベタにされるはずだったのは僕なのに。もしかしたら記憶力が乏しいか無に近いんじゃないか。おかしいと思ったんだ誰かが進んで僕の隣に座るのは一年生以来だったから。

「昨日のことがあったのに僕の隣に座るなんて」
「私昨日あなたに一目惚れしたんです」

彼女が朗らかに笑った。ひとめぼれ……ヒトメボレ、一目惚れ?一目見ただけで惚れる?僕に?……ありえない。ルシウス先輩や言いたくはないがブラックになら分かる話だ。大体一目惚れした女は一目惚れしたなんて言わない。彼女が少し変わっていたとしても、きっと。からかってるのか、そうに違いない。きっと昨日の仕返しか何かをしようとしてるんだ。

「あ」
「え?」

僕が見たのは、真っ直ぐ一直線にこちらにとんでくる溶けたアイスクリーム。なんでそんなものがここに。驚いたのも束の間。
「あ」
「きゃ!?」

びちゃ
見事に彼女の頭のてっぺんに墜落した。

「なんでまたナマエにあたるんだ!」

悔しそうなポッターの叫び声が聞こえた。やはり僕を狙ったもの。なのに昨日と同じようにぶつかったのはナマエだった。流石に手を差し伸べない訳にはいかず半泣きになっている彼女の頭上で杖を振りアイスを消した。

「……大丈夫か?」
「ありがとう、セブルス」

セブルス、彼女が僕の名前を口にしたときなんだか気恥ずかしかった。そしてまた次の日。今日はクィディッチの予選だった。正直嫌な予感がしたので図書館に行こうとしたらスラグホーン先生に捕まり競技場まで引っ張られた。試合はグリフィンドール対スリザリン。益々いやな予感がした。ふと隣を見ると、ナマエ。

「なななんでこんなところにいるんだ!」

驚くのも無理はない。グリフィンドールのスタンドは向かい側なのに。

「セブルスが、いたから」

ごくごく普通の出来事だと言わんばかりに彼女が言った。いやおかしい。絶対に、おかしい。誰かもう助けてくれ。そのまま試合が始まった。スリザリンのシーカーはレギュラス・ブラック。あのシリウス・ブラックの弟だ。場内を飛び回る彼はいつにも増して身軽に見えた。グリフィンドールのチェイサーであるポッターがスリザリンのスタンドの近くに来た。そこにビーターが打ったブラッジャーが迫る、が簡単によけた。ぶつかれば良かったのに、とか思っているとそのままブラッジャーはこちらに。進行方向には、ナマエ。いや、そればっかりは流石にヤバいだろう!あと数メートルと迫った時にどこからか悲鳴が上がった。すかさず杖を取り出し呪文を唱える。

「プロテゴ!(護れ!)」

バーンと音がして跳ね返ったブラッジャーは勢いよくポッターのほうへ飛んでいった。情けない叫び声が聞こえたけど、知るか。

「セブルスありがとう」

今度ははっきりと自分の顔が赤くなったのを感じてナマエの顔を見れなかった。二度あることは三度ある。あながち嘘じゃないらしい。そして(以下略)何故か今日も僕はナマエといた。ここの所毎日だ。出会う度に彼女は僕にしかけられた罠にはまっていた。それでも僕が助けてやるとけろりとした顔で次の日も隣にいるのだ。

「お前も物好きだな」
「そうかな」
「そうだ」
「ありがと」
「え?」

突然礼を言う彼女に驚いて立ち止まった。彼女も僕が急に立ち止まったのに驚いたのか急停止して後ろから歩いてきた男子にぶつかられていた。

「なんで、礼なんか」
「だって」

瞬間、彼女の言葉が遮られた。僕もなにも言えなかった。突然落下していた、廊下の真ん中で。ドスンと穴の底に落ちた。穴の入り口から逆光した眼鏡がこちらを見下ろしていた。

「なんで今日もナマエが一緒なんだ!」

……ポッターだ。ここから出たらタダじゃおかない。

「ナマエ!手を貸そうか?」

聞こえた声はルーピンのものだった。おそらく悪戯仕掛人が揃っているのだろう。さしずめポッター達のうしろから聞こえる腹の立つ笑い声はブラックのもので、「どうしよう」という悲鳴のような声はペティグリューか。

「お前はここから出ろ」

ナマエにそう言うと彼女はきょとんとした顔をしていた。

「セブルスは?」
「僕は自力で出れる」
「じゃあ、出ない」
「……一応聞くけど、何故」

こんな狭い穴の中で(僕は精いっぱい離れようとしているが彼女は気にしていないみたいだ)僕と一緒にいて何が楽しいというのか。

「セブルスに助けて貰いたいから」
「馬鹿か、お前」
「あんな眼鏡の人達に助けられるより、セブルスに助けて欲しいの」
「やっぱりお前は……物好きだ」

穴の上に向かって「丁重にお断りします!」と言って驚かれているナマエを見て溜め息をつく。まあ、仕方ない――のか?

「セブルス、大好き」

いつの間にか近くにあった彼女の頬に触れると、ナマエはあの柔らかい笑顔で微笑んだ。冷静にと思っている僕に反して高鳴る心臓、熱くなる顔。この笑顔には……どうしてもかなわないらしい。


スパイラル
=悪循環?


「ナマエ」
「なに?」
「さっきの「だって」の続き」
「あ、あれね…いつもかっこよく助けてくれるからって」
「……そう、か」
「セブルスったら顔赤い」
「う……」



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