「――……教授!スネイプ教授!」
「……ナマエ」

眠ってしまったらしい、なんとも嫌な夢を見た。この世に降り注ぐ太陽の光地上の醜い闇に溶けていく……そんな夢だった。確か期末試験の採点中だったのだが、暖かな暖炉の火が眠気を誘ったのと日頃の疲れが出たせいだろう。暖炉の火が消えて暗く冷えた地下室はそれだけでひどく寂しい空間になっていた。

「こんなところで寝てたら風邪引いちゃいますよ?」

柔らかい彼女の笑顔がその空間の雰囲気を破る。その瞬間瞬く間に暖かい風が隙間という隙間から入り込んだかのような錯覚に陥いった。それ程彼女は我輩にとって大きな存在なのだ。彼女がいる間だけ、この地下室を太陽の光が照らす。


ルックアットミー
嗚呼それは夢か現か


「教授!」

廊下で聞き慣れた声に呼び止められ、振り返るとナマエが少し離れた所から手を振っていた。図書館の帰りだろうか、横に分厚い本を抱えている。そう言えば彼女の授業であの忌々しいポッターが馬鹿をしでかし、かなりの量のレポートの罰則を全員に与えたのだった。運が悪いことに奴と何も関係がない彼女にまで罰則が及んでしまったが、ナマエはそれを少しも気にするそぶりを見せなかった。

「レポートを書いていたのか」
「はい!なかなかやりがいがあって……時間がかかりそうですけどね」

曖昧に微笑んだ彼女の頭にそっと手を乗せると、ナマエがはにかんでうつむいた。

「教授、またハリー達に罰則を与えたそうですね」

そのまま顔を上げずに彼女が呟く。ナマエがポッター達のことを気にするのは今に始まったことじゃない。最近は奴らが怪しい動きをすることが多くなり、自然と罰則する機会も増えていた。

「私耐えられないんです。……教授が、教授がこれ以上悪く言われるの」

我輩の悪口など、聞かない日は無いだろう。生徒達の中で我輩の評判が良くないのは百も承知だ。今更何を、と彼女の頭に乗せた手を滑らせ頬に触れる。

「我輩にはお前がいれば良い……お前さえいてくれれば、それで充分だ」
「……そんな」

顔を上げた彼女の瞳に涙がうっすら輝いている。

「それじゃあ、私がいなかったら」

そこまで言いかけてナマエは決心したように我輩の手を握った。低体温の我輩には心地よい彼女の暖かい手。彼女は我輩に、忘れかけていた人の体温を思い出させてくれた。初めてナマエの手に触れた時のことは今でも忘れない。

「私がいなかったら教授は」

やはり彼女は最後までその続きを言おうとしなかった。そしてその日から我輩に、彼女の笑顔が向けられることは無くなった。笑顔どころか、視線まで。毎日のように地下室に通っていた彼女がいなくなり、地下室は以前よりも冷たく寂しい空間になったような気がした。まるで地上から太陽を取り上げられたような――我輩にとって彼女は二つ目の太陽だった。どんなに暗い闇も、彼女がいたら避けられて。その太陽を失った今、部屋に蔓延る闇が我輩を飲み込もうとすぐそこまで迫っていた。

「ナマエ」

笑顔で返事をしてくれる彼女は、もういない。


ルックアットミー
もう一度、微笑んで。永遠の深い眠りについて、太陽の光が差す朝目が覚めてしまわぬことを。孤独な現実は夢か現か、彼は知る機会が来るのだろうか。


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