今日は本当についてない日だ。寝坊して呪文学に遅れるし(おまけに朝ご飯食べそびれるし)魔法薬学で鍋は爆発するし(髪がちょっと焦げたし)マンドレイクに噛みつかれたし廊下を歩いていたらクアッフルが頭に飛んできた(大体廊下でクィディッチの練習なんて危ないじゃない!)。極めつけは、寮の合い言葉が知らないうちに変わっていて中に入れないこと。事情を話しても肖像画は用心深く、中に入れてくれない。なによ!と肖像画の横の壁を蹴ると、惨めなものだと肖像画が笑っていた。おかげで12月の寒いホグワーツ(しかも地下)で待ちぼうけ。スリザリンの寮を地下にした奴に思いっきり悪態をつきたかった。

「純血なんてクソくらえなんだから!」

寂しさと悲しさとイライラで思わず呟く。背後の肖像画から「何と言うことだ」と唸られたけどスルーした。あなただってさっき私に惨めだとか言ってたじゃない!仕方がないから肖像画の前に座りこんで誰かが通るのをひたすら待つことにした。就寝時間はとっくに過ぎているから、きっと来るとしたら見回りの先生くらいだろう。寮鑑のスラグホーン先生だと良いな、と淡い期待を持ちながら待ち続けた。それから1時間。見事に誰も通らなかった。ゴーストやピーブズですら通らない。まるでホグワーツから地下室がなくなったみたいに。

「……ぐすっ……」

ついに、半泣き。だってだって寒いしひとりぼっちだし怖いし明日は魔法薬学の宿題の提出日なのに羊皮紙はまだ真っ白だし寒いし。なんで私だけ、こうなの?

「誰だ?」

突然暗闇に聞き覚えのある声が響いた。杖先に灯されたルーモスの光が近づいてくる。肖像画の側のろうそくに照らされた男の人は、ゴーストでもないし先生でもなく、

「トム、リドル……」

ハンサムで勉強ができてモテモテな、スリザリンの監督生だった。私を見下ろす彼の瞳がいつもの優しいソレではなく、目を疑いたくなる様な冷たいモノで、

「ナマエ・ミョウジか、ここでなにをしている?就寝時間はとっくに過ぎているよね」
「あ、あの」

声が上手く出なくて、小さな声が更にかすれた。コレは、恐怖?それとも寒すぎて……?

「私、合い言葉が変わったの知らなくて……」
「人が通るのを待っていたのか」
「……うん」

リドルが座り込んだままの私に近寄った。怒られる、よね。やっぱり。けれど彼が次にとった行動が信じられないもので、目を見開いた。

「さあ、立てる?」

差し出されたのは彼の右手。動揺してその手を掴むこともできないし立ち上がることも出来ないのは私。これは彼にとって当たり前のこと、特別なことなんかじゃない。言い聞かせても止まない心臓の鼓動を誰かとめて。
短い沈黙、それを不機嫌そうなリドルが破った。

「あー……君、僕のこと嫌いなのかい?」

なんて馬鹿げた質問だろう。

「そんなことない!」

間髪入れずに返事をして、しまったと思った。リドルはまたいつもの微笑みに戻り、差しだしていた手を引いた。

「じゃあ動けないし立てないだけだね」

リドルがそう呟いた。どこか安堵したような声色で、心臓がドキリとした。

「それじゃあ、中入ろうか」

次の瞬間私の体はひょいと持ち上げられていた。リドルによって。

「え、ちょっと!私重いよリドル!」
「うん、そうだね。少し重いかな」
「……結構傷ついたかも」
「冗談さ。君は軽すぎる」
「そ、そんなことない」

仲が良いのう、と肖像画が笑った。

「焼きますよ?」

リドルが言った。高鳴る心臓は、止まらない。リドルのキャラがいつもと違うとか、肖像画が茶化してくるとか、今日は確か凄くついてない日だったとか……そんなこともうどうでもよくて、

「合い言葉は?」
「ダイナミズム」


ダイナミズム
それが私たちの出会い。

(=発展の過程)



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