ペット

「なあ、俺のペット見に来ない?」
   ◇ ◇ ◇
 数年前、友人の家に行った時の話だ。彼は同僚で、音楽の趣味が合い仲良くなってから、よく家を行き来するようになった。
「実はこの部屋一室、丸々ペットの部屋なんだ」
 友人はそう言って、ドアを開いた。
「……これが?」
「可愛いだろ」
 白い天蓋付きベッドの上には、黒い革の首輪と鈴を付け、枕元のポールに鎖で繋がれたペットが眠っていた。オスだと聞いていたが、透け感がある白レースのワンピースまで着せられている。床には玩具が幾つか散乱しており、奥にはトイレが設えてあった。
「可愛い……いや、確かに可愛いけど……暴れないのかい?」
「大丈夫だよ。起こしてみようか?」
 友人は愛おしそうにペットの頭を撫で、頬をつつく。安心している様で、全く起きない。友人はペットの耳元に、ふう、と息を吹きかけた。
「!?」
 ペットが飛び起きる。キョロキョロと周囲を見渡した後、視界に入ったに違いない僕を完全に無視し、友人の顔にキスをした。
「ごしゅじんさま、おかえりなさい! きょうのおくすり、いつくれますか?」
 友人はペットの頭をくしゃりと撫でてから、こちらを振り向く。
「ご覧の通り、オシオキと薬で従順なのさ」
「……見た所、怪我は見当たらないが」
「跡の消えやすい場所を選んでるからね。足を見てみろよ」
 言われて視線を足に落とすと、なるほど、右足親指の爪に赤い線が入っている。
「最初は手もしてたんだが、今じゃやんちゃした時だけだからね」
 友人はそう言ってウインクした。
   ◇ ◇ ◇
「どうだい? 来るかい?」
 ぼうっと回想していた僕に、友人は強めの声で繰り返す。
「いや、遠慮しておくよ。そういえばあのペットは今、何歳なんだい?」
「犬なら二歳かな。まだまだ可愛いよ」
 曖昧に笑って茶を濁し、自分のデスクに戻る。
 ……いつかあのペットが可愛くなくなった時、友人は一体「彼」をどうするのだろうか。

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