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わんどろ〔そわそわ〕

立ったり座ったりを繰り返す手を、黄瀬が強く握った。二人とも身支度は済んでいて、顔を見せた母親がやっぱり涼太くんはイケメンねと笑う。この人とも一時期は疎遠になった。今笑いあっているのにふと新鮮味を感じる。隣の涼太と顔を見合わせ、まだ空の薬指を絡め合った。
#kks74_60min

朝から落ち着かずに、立ったり座ったりを繰り返す。20回を超えた所で、立ち上がった俺の左手を黄瀬が強く握った。優しい顔で頷かれて、黙って隣に腰を降ろす。触れた手はいつに無く熱かった。
とうに二人とも身支度は済んでいて、気まぐれに顔を見せた俺の母親が、やっぱり涼太くんはイケメンねと笑う。この人とも一時期は疎遠になった。それは母さんのせいではなくて、きっと俺達のせいでもなかったんだろうと今では思う。たぶん、お互いに必要な時間だったのだ。今では何かあれば躊躇することなく電話をかけられるし、実家にだってなんの遠慮もなく涼太と帰省する。そして、それを蟠りなく受け入れてもらえる。
笑い合いながら涼太と話す母親に、ふと新鮮味を感じて、俺は左を見上げた。気配に気付いた涼太がこちらに向き直る。
「緊張してる?」
「いや、なんでもない」
「そっか。……俺はしてますよ」
繋いだままの左手が、力を強めた。それを目ざとく見つめた母親が、最後の時を二人で楽しみなさいと余計なことを言い置いて部屋を出ていく。余計な事を、と言いながら少しほっとした。
「もうすぐ始まるんすよね」
「うん」
「ねぇ、笠松センパイ」
穏やかな瞳が返事を強請るので、俺は仕方なくその瞳を一心に見つめ返して返事をする。
「なんだ、……黄瀬」
いつもは涼太と呼ばないと拗ねるくせに。
「なんでもない」
「あっそ」
馬鹿馬鹿しくて、愛おしい会話に同時に笑みを浮かべて、俺達はまだ空のままの薬指を絡め合った。





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ぷらいべったに上げるのを面倒がって1ついに纏めた後で短過ぎるな、と思ったんですが、今肉付けしたらちょっと方向性変わってしまった。



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