枯れた樹(4/4)
あたしたちはエステルの後を追ってよろず屋を訪ねた。
「はいよ、いらっしゃい。今日は何がいり用で?」
気前のよさそうな店主が迎えてくれた。
「パナシーアボトルはあるか?」
「あいにくと今切らしてるんだ」
店主は申し訳のなさそうな顔をした。
「そんな……」
エステルは落胆しうつむいた。
『そう落ち込むなってエステル。合成に必要なものは?』
エステルの肩にぽんと手を置いた後、店主に尋ねた。
「<エッグベアの爪>と<ニアの実>、<ルルリエの花びら>の3つだ。けど、パナシーアボトルを一体、何に使うんだ?先日も同じことを聞いてきたガキがいたんだが」
「ハルルの樹を治すんです」
「え?パナシーアボトルを樹に使うなんて、聞いたことないけどなあ」
その時、気配を感じてちらと後ろを見た。ユーリも気づいたようだ。
そこには隠れているつもりなのだろうが隠れきれていないカロルの姿があった。
「ふ〜ん、なるほど」
そう言ってユーリは前に向き直る。
ユーリが何を納得したかなんとなく理解し、あたしも店主の方に目を戻した。
恐らく、さっきのカロルという少年が前に尋ねたのだろう。
「あの、<ニアの実>ってどういうものです?」
「エステルが森で美味い美味いって食ってたあの苦い果実だ」
『エステル、ニアの実美味いってどういうことだよ……』
知識のないときにふざけ半分で食べさせられたことがあるが、あの苦味はよく覚えている。
「なら、エッグベアは?」
「悪い、魔物は専門外だからよく知らないんだ。魔物狩りを生業にしてる魔狩りの剣の人間でもいれば、わかるんだろうけど……」
店主は肩をすくめて申し訳ないといった顔をした。
ユーリはカロルのいる方を見つめた。
「あいつ、そのために森にいたのか……」
『カロルって子のこと?』
「ああ」
「ルルリエの花びらというのは?」
「この街の真ん中にハルルの樹があるだろ?あれの花びらさ。普通なら魔導樹脂を使うんだけど、このあたりにはないからね」
『でも、花は枯れてるしな……』
「ルルリエの花びらは長が持ってると思うから聞いてみてよ」
「わかった。素材が集まったらまたくるよ」
よろず屋を後にして、そのままカロルのもとへ行った。
カロルはこちらに背を向けてうつむいている。
「カロル、クオイの森に行くぞ」
「え?」
ユーリの言葉にぽかんとした表情をカロルは浮かべた。
「森で言ってたろ?エッグベアかくご〜って」
「パナシーアボトルで治るって信じてくれるの……?」
「嘘ついてんのか?」
カロルは首を振って否定の意を示した。
「だったら、オレはおまえの言葉に賭けるよ」
「ユーリ……」
カロルはようやく笑った。
『かっこいいこと言うじゃん、ユーリ』
「からかうなよ」
「も、もう、しょうがないな〜。ボクも忙しいんだけどね〜」
カロルは照れくさそうな顔をして頭を掻いた。
「エステルも来るの?」
「当たり前じゃないですか」
エステルはさも当然のように答えた。
「フレン待たなくていいのかよ」
「治すなら樹を治せって言ったのはユーリですよ」
「なら、フレンが戻る前に樹治して、びびらせてやろうぜ」
ニィと悪そうな笑みをうかべてユーリは言った。
「ねぇふたりとも、この人誰?知り合い?」
カロルはあたしの方を見てユーリとエステルに問いかけた。
「さっきハルルの樹の下で知り合ったんだよ」
「一緒に樹を治そうってことになったんです」
「そうなんだ。ボクはカロル・カペル!ギルド、魔狩りの剣の一員だよ」
『アスカ・シークランドだ。よろしくカロル』
カロルが差し伸べてきた手を握り返しながら答えた。
魔狩りの剣、少しばかり縁のあるギルドだ。
軽い自己紹介を済ませた後、村長のもとを訪ねた。
「あの、ルルリエの花びらを持っていませんか?」
「誰からそれを?確かに持っていますが……」
村長はわずかばかりに驚いた顔をした。
手短に説明すると納得がいったようだ。
「なるほど、そういった理由で。ルルリエの花びらはハルルの樹に咲く三つの花の一つ。それを半年間陰干しにして作る貴重な物。最後のひとつですが、樹がよみがえるのであれば」
村長はそう言うと、家からルルリエの花びらを持ってきて、エステルに渡した。
「ありがとうございます」
「後はニアの実と……エッグベアの爪だっけ?」
「うん、クオイの森へ行こう」
『クオイの森、か』
クオイの森は呪いの森らしいという噂を思い出したが、特に気にすることでもないだろう。
あたしたちはクオイの森へ向かった。
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