暗然たる港町(4/5)
部屋を出てから宿屋の部屋を取り、男女で分かれて一泊することになった。
食事等を済ませた後あたしとエステルが談笑している中、リタはベットの上であぐらをかきずっと考え事をしているようだった。天候を操る魔導器について色々考えているのだろう。
それは自分も気になるところなのだが……。
「……現物確かめないと、どうしようもないわね。あたしは先に寝かせてもわうわ」
「おやすみなさい、リタ」
『おう、おやすみリタ』
リタはごそごそと布団にくるまって寝始めた。
エステルと目を合わせ、小声で話す。
『もういい時間だし、あたしたちも寝るか』
「そうですね。もっとお話ししたいですけど、明日寝坊したらユーリに怒られちゃいますから」
『これからもたくさん話せる時間はあるさ。おやすみ、エステル』
「はい。おやすみなさい、アスカ」
エステルのにこやかな笑顔に思わず笑みがこぼれる。
部屋の電気を消し、各々ベットに向かう。
自分のベットにぼふりと身体を預け、久しぶりの柔らかな感触に安心して息を吐く。
『(天候を操る魔導器……。じいちゃんに関係あることかはわからないけど調べて損はしないはずだ)』
祖父のことを考え始め自然と父の顔も浮かんでくる。
『(みんなとの旅は楽しいけど、本来の目的は見失っちゃいけない。じいちゃんの手がかりと、父さんを探すのがあたしの旅だ。それを、忘れるな)』
そう自分に言い聞かせて、目を閉じた。
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翌朝、集合時間に全員集まり宿屋を出てこれからのことを話し合うことにし、カロルが一番に切り出した。
「これからどうする?」
「わたし、ラゴウ執政官に会いに行ってきます」
『多分、門前払いだろうな』
「いくらエステルが貴族の人でも無駄だって」
「とは言っても、港が封鎖されてちゃトリム港に渡れねぇしな。デデッキってコソ泥も、隻眼の大男も海の向こうにいやがんだ」
「うだうだ考えてないで、行けばいいじゃない」
「話のわかる相手じゃねえなら別の方法考えればいいんだしな」
「では、ラゴウ執政官の屋敷に向かいましょう」
昨日執政官の屋敷の前まで行ったらしいユーリの先導で屋敷に到着した。
入口には街の入口にいたようなガラの悪い傭兵が二人おり、足止めされる。
「なんだ、貴様ら」
「ラゴウ執政官に会わせていただきたいんですが」
「ユーリ、この人たち、傭兵だよ。どこのギルドだろう……」
「道理でガラが悪いわけだ」
カロルの耳打ちにユーリは納得したような顔をした。
帝国の人間がギルドの人間を雇う?怪訝に思い目を細めた。
「ふん、帰れ、帰れ!執政官殿はお忙しいんだよ」
「街の連中痛めつけるのにか?」
「おい、貴様、口には気をつけろよ」
ユーリの皮肉めいた言葉に傭兵は持っている剣を今にも向けそうな勢いだ。いざという時のために態勢を整える。
「だから相手にされないって言ったじゃないか。大事になる前に退散しようよ」
「ここはカロル先生に賛成だな」
「でも、他に方法が……」
「いいから、行くよ」
『少し落ち着けば、何かしら浮かんでくるはずだ』
先に歩き出して行ったユーリの後を追う。エステルは律儀に礼をしてこちらに走ってきた。
「正面からの正攻法は騎士様に任せるしかないな」
「それが上手くいかないから、あのフレンってのが困ってるんじゃないの?」
「まあな。となると、献上品でも持って、参上するしかないか」
「献上品?何よ、それ」
リタの疑問に自分の推測をユーリにぶつける。
『リブガロのツノ、だろ?』
「そ、価値あんだろ?」
「そういえば、役人のひとりが言ってました。そのツノで、一生分の税金を納められるって」
「そんだけ高価なもんなら面くらい拝ませてくれるだろ」
一生分か怪しいけど、と言おうと思ったが話の腰を折るだろうと口を噤んだ。
「リブガロってのを捕まえるつもり?」
「だったら今がチャンスだよ!雨が降ってるし」
「雨がどうかしたんです?」
「リブガロは雨が降ると出てくるんだよ。天気が変わった時にしか活動しない魔物ってのが、時たまいるんだよね」
『へえ』
魔物に関することは流石カロル、と思ったがしかし。
「よく知ってるな、カロル先生。それで?」
「……それでって?それだけだよ?」
「どこにいるんだ?」
「さ、さあ……」
肝心のことはわからないらしく、こちらに助けを求めるように視線を向けてきた。
残念ながら自分も知らないので一案を示してみる。
『街の人なら知ってるかもしれない。聞いてみたら?』
「そうですね、話を聞きましょう」
「聞きましょうって、いいのかよ、エステル」
「はい?」
「下手すりゃ、こっちが犯罪者にされんだぞ。この街のルール作ってんのは帝国の執政官様だ。そいつに逆らおうってんだからな」
あたしの案に同調したエステルだが、ユーリに待ったをかけられ諭される。
その言葉に少し考えた後、決意をしたのか顔を上げはっきりと言った。
「……わたしも行きます」
「いいんだな」
「はい」
「リタもいいんだよな?」
「天候を操れる魔導器っていうのすごい気になるしね」
「アスカもいいか?」
『ああ、ここまで来たら付き合えるとこまで付き合うさ』
ユーリが各々の意思の確認をし、全員了承すればエステルはにこりと笑みをうかべる。
「決まりですね!」
「じゃあ、まずリブガロを探すとしますか」
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