丘を越えて(4/5)



「オレとアスカであのデカブツを引き付ける」
『了解』

ユーリとともにガットゥーゾに向かい駆けて行く。

「カロル、ラピード、リタはその間に小さいやつを倒してくれ。エステルはみんなの補助頼んだ!」
「まかせといて!」
「しょうがないわね」
「わかりました!」

ラピードはワンと鳴くとカロルとともにガットゥーゾ・ピコへと向かって行った。
エステルとリタはそれぞれ術の詠唱を始めた。

あたしとユーリに向かって突進してきたガットゥーゾを左右に分かれて躱し、それぞれ衝撃波を飛ばした。

「蒼破刃!」
『飛雲!』

ガットゥーゾは二つの衝撃波による攻撃を受けてもひるむ様子はなく再び攻撃を仕掛けてきた。
ユーリの方に狙いを定めているようなので、そのうちに背後に回り、手を伸ばし攻撃している隙に何回か斬りつけた。
すると、ガットゥーゾは横目でこちらをジロリと見てきて、身構えているとその長い尻尾をギュンと伸ばし攻撃してきた。

『うおっ!』

ギリギリのところで躱すと、こちらに向かって攻撃を仕掛ける仕草を見せてきたので姿勢を立て直した。

「アスカ!大丈夫か!」
『ああ!』

ユーリが心配して声をかけてくれている内にもガットゥーゾは鋭い爪のある手を突き出し攻撃してきた。
それを剣で受け止めるが、思っていたより重い攻撃に一瞬押されそうになった。

『ぐっ……!』
「アスカ、すぐに助けます!シャープネス!」

じりじりと睨み合い腕の骨がぎしぎしと悲鳴を上げていると、エステルが術をかけてくれたおかげで攻撃をはじき返した。

『ありがと、エステル!』
「はい!いつでも助けますからね」

「よし、一匹倒したよ!」
「ナイスだカロル!そのままもう一匹頼むぜ」

ガットゥーゾ・ピコたちの相手をしていたカロルからの報告に、気合を入れなおしてガットゥーゾと対面する。
いつでも来いと構えていたが、あたしを通り過ぎて後方にいるエステルの元へ向かっていった。
エステルは術の詠唱に集中しており、逃げられる様子ではない。
ガットゥーゾは爪に禍々しい緑色の毒を纏わせ、今にもその爪でエステルに攻撃を仕掛けようとしている。

エステルがその攻撃を受ける光景が頭によぎり、背筋が凍りついた。
ガットゥーゾに気づいたエステルがはっと顔を上げたが、既に目の前にガットゥーゾの手が迫っていた。
全速力で走り、エステルとガットゥーゾの間にすべりこんだ。


『ぐあっ……!』

「あ……」


左肩を毒を纏った爪がグッと食い込み、そのまま抉られ、血が飛び散る。
肩に鋭い痛みが走ると同時に、毒が回り始めたのか身体が熱くなり息が荒くなる。
剣を地面に突き刺し体を支えるが、力が抜けて立っていられなくなり地に倒れ込んだ。
じわりじわりと地面に血が広がっていく。
エステルは茫然とし、力なく膝から崩れ落ちた。

「アスカ!っ、てめえの相手はオレだ、かかってきやがれ!蒼破ァ!」

あたしが攻撃を喰らったことを確認すると、ユーリは眉間に皺を寄せ衝撃波を飛ばしガットゥーゾの気を引いた。

「エステリーゼ!とにかく治癒術でアスカの傷塞ぎなさい!」

リタの叱責によりエステルははっと我に返ると、すぐさま術の詠唱を始めた。

「アスカ、おねがい、死なないで……」
『は、……こんなんで、死んだりしないよ……』

今にも泣き出しそうな顔をしぎゅっと手を握ってきたエステルに、心配ないと笑いかける。
手を握り返してやりたいが、毒のせいか身体に力が入らない。

その間に詠唱が終わり治癒術によって血は止まり、完全ではないが傷は塞がった。
しかし、未だに毒が身体を蝕んでいて息苦しさは治まらない。

「エステル〜!アスカにこれを!」

カロルがこちらに走ってきて、大きな鞄の中をごそごそと漁り、エステルにポイズンボトルを手渡した。

「これを飲ませてあげて、そしたら毒は消えるだろうから」

そう言うと、カロルはすぐにガットゥーゾ・ピコのもとに戻っていった。

「アスカ、これを……」
『ん……』

エステルはあたしの身体を抱きかかえるとポイズンボトルを飲ませてくれた。
すると、徐々に身体の熱と怠さは引いていき、呼吸も楽になった。
正常に戻った呼吸に胸を撫で下ろし、深く息を吸い込んだ。

『……はー』
「アスカっ!」

吸い込んだ息を思い切り吐き出すと、エステルが抱き着いてきた。

『うわっエステル、くっついたら血が……』
「無事でよかった……」

表情を伺うことはできないが、エステルの声は震えていた。
自分のせいで不安にさせたことを重々理解しているので、謝罪の言葉を漏らす。

『……ごめん』
「目の前でアスカが血を流して、倒れて、すごく怖かったです」
『うん』

あやすようにエステルの背を軽くたたいていると、ガットゥーゾの相手をしているユーリが叫ぶ。

「傷治ったならそろそろ戻ってきてくんねえか!人が少ないとしんどいんでね」
『ユーリがお呼びだ、話はまた後でな』
「はい、気を付けて…」

エステルが腕の力を緩めると、あたしはそっと抜け出した。
血がなくなったせいか少しふらつくが、落ちた剣を握りしめガットゥーゾに向かっていった。









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