旅の決断(3/5)



「げっ、なにこれ、もう満開の季節だっけ?」


リタのハルルに着いた第一声がこれだった。
ハルルの樹は色鮮やかな花を咲かせ、花弁が雨のようにひらひらと舞い落ちる。
地面を踏む度に落ちた花びらが舞うほどだ。

「へへ〜ん、だから言ったじゃん。ボクらでよみがえらせたって」

ほとんどエステルのおかげだけどな、と心の中で言った。
自慢げに言うカロルに腹を立てたのか、リタはカロルの頭を殴って走り去った。
相当痛かったらしく、カロルは頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
すごい音がしたし無理もない。


「おお、皆さんお戻りですか。騎士様のおっしゃったとおりだ」

現れたのはハルルの村長だった。
穏やかな笑みを浮かべ、迎えてくれた。

「あの……フレンは?」
「残念でしたな、入れ違いでして……」

「え〜、また〜」
『ついてないな』

ここまで会えないと何かついてるのではと疑いたくなってしまう。

「結界が直っていることには大変驚かれていましたよ」
「あの……どこに向かったか、わかりませんか」
「いえ……私にはなにも……」

エステルの問いに、村長は首を振った。

「ただ、もしもの時はと手紙をお預かりしています」

村長はユーリに手紙を渡し、頭を下げてから家に戻って行った。


手紙の封を開けると、出てきたのは一枚の手紙と手配書だった。
下手くそな似顔絵だが恐らくそれはユーリだった。
おかしくて思わず笑いが洩れた。

『ぶっ……』
「笑うことねぇだろ」
『ごめ……、下手すぎてつい……』
「え?こ、これ手配書!?って、なんで?」

カロルとエステルは目を丸めて驚いた。

「ちょっと悪さが過ぎたかな」

ユーリは悪びれた素振りも見せない。

「い、いったいどんな悪行を重ねてきたんだよ!」


「これって……わたしのせい……」

沈んだ顔をしたエステルがぽつりと言い洩らした。
ユーリは自分を誘拐したことになっていて、賞金首になっているといったところか。

「こりゃ、ないだろ。たった5000ガルドって」
『安い男だなあ、ユーリ』
「脱獄にしては高すぎだよ!他にもなんかしたんじゃない?」
「それで、手紙にはなんて?」

ユーリは手紙をエステルに手渡した。

「『僕はノール港に行く。早く追いついて来い』」
「『早く追いついて来い』ね。ったく、余裕だな」
「それから暗殺者には気をつけるように書かれています」
「なんだ、やっぱり狙われてんの知ってたんだ」
「なんか、しっかりした人だね」

カロルがフレンに対する印象を洩らした。

「身の危険ってやつには気付いてるみたいだけどこの先、どうする?」
「そうですね……」
「オレはノール港に行くから伝言あるなら伝えてもいい」
「それは……でも……」

エステルは歯切れの悪い返事をするばかりだった。
自分はどうすべきか迷っているようだ。

「ま、どうするか考えときな。アスカはこのままハルルか?」
『今んところはね。ユーリ達が出発する頃にはちゃんと決めておく』
「わかった。リタが面倒起こしてないかちょっと見てくる」

そう言ってユーリはハルルの樹の下へ向かって行った。


「アスカ、わたしどうすればいいんでしょう……」

消え入りそうな声でエステルはあたしに助けを求めてきた。
あたしはそれに対し、思ったことを返した。

『どうするかって決めるのはエステル自身だ。エステルのことを決める権利はあたしには無い。後悔の無い選択をすればいいと思う』

「後悔の無い選択……ですか……」

『あたしは、あたしの旅をするって選択に後悔してない。辛いと思ったこともあるけど、そればかりじゃないしな。旅をしなきゃわからなかったこともある。何より、自分でちゃんと考えて起こした行動だからさ』

「……ありがとうございます、アスカ」
『いえいえ』
「アスカはこれからどうするの?」

『あたしは……』

カロルの問いに答えようとしたときだった。
どこかで聞いた声が鼓膜を震わせた。


「エステリーゼ様、見つけましたぞ!」








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