なみだはきらめく

自身が愛読する本が映画化になった。
見に行きたいと思っていたところに、佳香ちゃんからのお誘いを受けたものだから嬉しくて2つ返事で答えると、佳香ちゃんはくすりと笑みを洩らしながら「よかったです」と呟いていた。

小さい劇場であったためか、それとも穴場であるためか。
人はまばらに座っている程度の数。
後ろの中央に2人で座ると、始まる合図であるブザーが鳴り、私と佳香ちゃんは慌てて画面に視線を向けた。


内容は至ってシンプルなもので、仲睦まじく暮らす恋人が引き裂かれてしまう。
いつか必ず会おうという約束を心の支えにして、離れ離れになりながらも懸命に生き、数十年後にやっと会えるというハッピーエンドな話だ。


「いい作品だったね」
映画館を出た最初の言葉が、この呟きであった。
おそらく気のせいではないであろう、佳香ちゃんの目の縁に輝く涙に私は無意識に手を伸ばしていた。
「佳香ちゃん泣いていたでしょ」
「解ってしまいました?恥ずかしいなー」
隠すというより、むしろ開き直るように笑って答えた佳香ちゃん。
しかし、その表情が突然曇り、ついには辛そうに眉を下げるところまで変わってしまう。
どうしたの?
問いかける私の言葉に、佳香ちゃんは私の服を掴むと微笑んだ。

「私と仁美さんは、ずっと一緒ですよね?」
「一緒だよ。・・佳香ちゃんが私に愛想を尽かさなければの話だけど」
あまりにも真剣に悩む佳香ちゃんに、すこしでも笑ってほしくて冗談気に答えると、ぽこぽこと叩かれた。
「それじゃあ安心ですね。私は仁美さんのことをずっと好きでいる自信がありますから」
力強く語る佳香ちゃんの瞳は、まるで炎が宿っているかのようにきらめいていた。
そんな彼女の姿が可愛くみえて、小さく笑う。
つもりだったのに、瞳から涙が伝った。
なぜかと問われるとはっきりとは答えられない。
しかし、佳香ちゃんの言葉が嬉しくて、という言葉が一番相応しいように思えた。

「仁美さん、どうしたんですか?」
「なんでもない」
「なんでもなくないでしょう?」
私の頬に触れた佳香ちゃんの手は、ほのかな温もりがあった。
優しい人だと改めて思った。
この人の隣にいたい。
映画のように離れ離れになったとしたら、きっと、いつか必ず会いにいくだろう。
私にとって、佳香ちゃんは月のように焦れる存在。
手を伸ばそうとしても、簡単には掴めなくて。
だけど、誰よりも側にいてくれる存在。


私の想いを読み取るように、佳香ちゃんはゆっくりと言葉を紡ぐ。

「仮に離れ離れになりそうになっても、私は簡単に仁美さんを離さないですよ」
安心してください。
笑う佳香ちゃんは、なんだかいつものように可愛さとは別のかっこよさを見せる。

「私も佳香ちゃんを抱きしめて離さないよ」
涙はどこかに消えてしまったように、止まった。
目の縁の残る涙をぬぐって笑うと佳香ちゃんは私を強く抱きしめた。



(ずっとずっと大好きですよ。仁美さん)
(私も大好きだよ。佳香ちゃん)

=====
永久に幸せになれ。

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