ゆびわ

長いときを生きた。
実際は長寿と呼ばれる人々の半分ほどの人生であるが、そんなことは今の私に関係は無い。
悔いなどないと言えば嘘になる。
右手を見ると幼いあの頃よりも皺が刻まれているように思えた。


同じ空を見る。
同じ時を過ごす。
隣にいる。
電話をする。
声を聞く、会う、見つめる、愛を囁く、酷い言葉を投げる。
心から愛した人とそのような時間を過ごせたらどれだけ幸福だったか。
私の場合、たったの二年だった。
出会いから別れまで、二年。
しかし充実感はあった。
思い出といえる彼女の代物は手元に一つだけしかなかった。
安い指輪だった。高校生でも買える程度のそれをお揃いで買い、交換した。
偽物の青い宝石が埋め込まれた指輪。
右手薬指にはめて笑い合う日々。
高価なものではなかったが、私にとってその指輪は紛れもない婚約指輪だった。
婚約など実際は出来なかった。私と彼女だけのやり取りで成り立つものだったからだ。
掬うように添えられた右手は壊れ物を扱うように丁寧で、長い時間が過ぎた感覚だった。
「似合うよ」
覗く顔が得意げで可愛いと思った。私の表情を読む事に長けた彼女は、唇を尖らせる。
またね、とも。
さよなら、とも。
いつか、とも言わなかった。

幸せそうに笑う貴方を写真で見た。
白い衣装に身を包み、綺麗な顔で映る貴方。

こんなことってない。
神様、どうしてあの子を選んだの?

テレビに映る彼女。
___
昨夜未明に起きた通り魔事件
被害者は都内に住む佳香さん…
___

平凡な時間をすごしていただけだった。
ただ愛した人が彼女であっただけで、その他は周りにいる少女たちと何ら変わらない。

「こんど出かけようよ。最近できたカフェがあって!」
「また食べ物?本当に食べることが好きだね」
「だって美味しいものを食べると幸せにならない?美静さん」

こんなに別れが早いならもっと素直に気持ちを伝えておくんだった。
後悔しても遅く、薄れゆく意識の中見たものは、右手にはめた指輪だった。
安物だったけれど、関係なかった。
両親、友人、そして美静さんのことを想う。

愛していました。
偽りのない愛でした。
力の入らない手をどうにか動かして指輪に口付ける。
ああ、会いたい。
一目だけ。ううん、貴方をいつまでも見ていたかった。


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