銃と華


乾いた音が空気を振るわせ、響き渡る。
つい先ほどまであんなに優しい笑みを浮かべていた彼女が地に伏せた。吸い込まれるように横に倒れて、微かに開かれた口許から掠れた声が漏れた。
私の名を呼んだその声が何度も何度も聞こえて、私の口からも掠れた声が零れ落ちた。
駆け寄り、くてんと倒れた彼女の首を持ち上げるように身体を抱き寄せた。
「汚れちゃう」
なにに汚れるというのだろうか。こんなときでさえ、彼女は遠慮をするのだから私は呆れるようにその口許を緩ませた。いつものように笑う。つもりだったけれど、実際は引きつった笑みが彼女の瞳に映っていた。
「佳香ちゃん、汚れちゃうよ。綺麗な服が台無しだよ」
ばかだなぁ。本当にあなたはどうしようもなく。
「もう。白が赤に染まったところでどうとなるっていうの」
「綺麗な白なのに」
はぁ、と深い息をついた香里さんは私の頬に手を伸ばした。
順に冷えていくその手が、今は哀しくて仕方が無い。
いつもならば。
いつもいつも、貴方の手は冷たくてその度に私に甘えて手を繋ぐ。
その一時がどうしようもなく愛おしかった。

「やっぱり私たちは一緒になれないんだね」
「そんなことない。そんな、ことさせない」
ねぇ、眠らないで。
焦った声の私をみて、貴方は嬉しそうに笑う。

「佳香ちゃんの腕に抱かれて、っていうのも悪くないね」

そういって、青白い顔で私に啄ばむようなキスをした。
彼女は遠いところに行ってしまった。
ひどい人だ。
私を置いていってしまうなんて。

____
結婚式だった。
ささやかな、小さな式。
白いドレスを着た彼女と私。
誓いをたてる直前に起きた銃声に、場は騒然となる。

白いドレスが滲む赤は、次第に黒へと変わる。
それでも、じわりと染み渡る血はまるで花のようだった。

「貴方を永遠に愛します」
力なく私の腕に抱かれる彼女に最後の口づけを。

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