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佳奈ちゃんと結婚して、一緒に暮らすようになって。
そんな私たちの間には、可愛い女の子が生まれた。
名前は美静。
悩んで悩んで、やっとつけた名前。
健やか育ってくれたのは、私たち夫婦はとても嬉しい。
それに優しいお姉さんが、美静にはいる。
隣の家に住む、なばと静さんの娘で、名前は佳香ちゃん。
静さん譲りの艶やかな黒髪と、なばの性格を受け継いだ彼女は、齢2才で衝撃的なことを口にしたのだった。
そう、あれはまだ美静が生まれて1ヶ月くらいのころだ。
ベビーベッドで幸せそうに眠る美静を優しく見つめながら小さく呟いた。
「美静ちゃん可愛いね」
美静の頬に愛しげに触れる佳香ちゃん。
「そりゃ、私と香里ちゃんの子供だもん」
「佳奈ちゃんっ!」
「だって本当のことじゃん」
佳香ちゃんの頭を撫でる佳奈ちゃんを見つめながら、私は美静にそっと触れた。
眠りながらも嬉しそうに笑う美静。
寝顔は佳奈ちゃん似な美静。
やはり好きな人の似たところを見つけると、幸せな気持ちが心に広がる。
「ねえ?香里さん」
「なに?佳香ちゃん」
くいくい、と私の袖をつかむ佳香ちゃんに、私は目線を合わせるようにしゃがむと、やや首をかしげた。
「私が大きくなったら、美静ちゃんをお嫁さんにもらうね?」
…聞き間違いだと信じたい。
齢2才の少女が、お嫁さんになりたいっていうのは解る。
しかし、お嫁にもらうと言った。
それも、可愛い我が子を、だ。
固まってしまった私を後ろから抱き締める佳奈ちゃんは。
可笑しそうに笑いながら、佳香ちゃんに言った。
「私たちは別にいいよ。けど、美静が佳香ちゃんと結婚したいって言わなきゃ、ね?香里ちゃん」
諭すように告げる佳奈ちゃんの言葉。
その話が、再び私に振られれば、首を縦にふり微笑む。
「美静が好きになる人は、私たちも解らないから」
私たちの言葉を聞いた佳香ちゃんは、しばらく考えこむように俯いた後。
顔をあげ、なば譲りの微笑みを浮かべていったのだ。
「大丈夫!きっと美静ちゃんは、私のことを好きになってくれるよ」
その自信はどこからくるのか問いたい気持ちで一杯だったが。
侮るなかれ。
彼女は、生天目仁美と伊藤静の娘。
もしかしたら、本当に口説き落とすかもしれない。
まだ生まれたばかりの娘に、やや同情をしながら。私は佳香ちゃんを抱き上げた。
「佳奈ちゃん、本当にいいの?」
夜、佳香ちゃんが帰った後。
私は、テレビに夢中な佳奈ちゃんに問いかけた。
「佳香ちゃんが言ってたお嫁さんに、のこと?」
「うん」
「…大丈夫でしょ。だって美静は私と香里ちゃんの子だよ?」
言っている意味がよくわからない。
不思議そうな顔をしていたのだろうか、佳奈ちゃんが私の顔を見て笑った。
「香里ちゃん譲りの鈍感さがあるって」
「なにそれ」
「絶対、美静は佳香ちゃんのアプローチをただのスキンシップとしか思わないよ」
楽しげに笑った佳奈ちゃんは、私の左肩に頭を乗せた。
「うーん…」
「私たちが心配したって仕方ないよ」
だけど、可愛い娘の将来を心配したっていいじゃない!
そんなことを思いながら、私は佳奈ちゃんの手をそっと握った。
○つづく…
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