伊藤家

「佳香」

機嫌の良さそうな声が玄関先で聞こえた。

ああ、今日もまた飲んできたのかとため息をつきながら、私は小走りで姉の元へと向かった。

「静姉、また飲んできたの?」

「だって仁美さんと一緒にいたら楽しくて〜」

あーあ。こんなに酔っちゃって。

カバンを受け取ろうと手を伸ばせば、私は思いっきり抱きつかれた。

お酒の匂いがした後に、さらりと私の肩へと落ちた姉の髪からは、甘い香りがした。

オトナな女って感じ。

そんな姉が嫌いなわけではなかったが、他の人にこんな可愛い姿が見られていると思うと面白くないわけで。

 

「もう動けない〜」

「じゃあ、こんなに飲んでこないでよ」

「いいでしょ〜、別に」

毎回介抱するこっちの身にもなってほしいものだ。

そんなことを思いながらも、実際は自分だけに与えられた役目だからすこし嬉しかったりする。

 

 

背中にまわされた腕から、力が抜けていき

静姉は私の腕の中でぐったりとしてしまった。

 

 

「…仕方ないな」

どうにかして姉の体を起こすと、膝と首の後ろに手を入れ抱き上げた。

いわゆる御姫様だっこというやつをして、寝室まで向かえば私は姉をベッドへと寝かせた。

 

寝苦しくないようにシャツのボタンを何個か外して、布団をかける。

 

 

「おやすみ、静姉」

 

そんな言葉をかけて、私は起こさないように寝室を後にした。

大好きな姉は、最近毎日のように飲みにいっている。

すこしさみしいと思うのは、我儘なのだろうか。

 

 

 

 

そのころ寝室では、1つの影がゆっくりと動いていた。

 

「今日も失敗かー」

なにかを計画していたのだろうか、悔しそうにため息をつくと窓から入る月明かりに目を細める。

頬は染まった状態であるが、意識ははっきりしているようだ。

 

「明日はどうしよう」

大好きな妹に妬いてもらいたくて、毎日飲みにいっているのに

まったくといっていいほど効果がないわけで。

静にとっては佳香可愛くて可愛くて仕方がない妹である。

 

 

「静姉??」

心配して見に来てくれたのだろうか、佳香がひょっこりと扉から顔を出してこちらの様子をうかがっている。

申し訳なさそうに眉を下げ、こちらを見ていた。

 

「どうしたの?」

問いかけながら、私はベッドから体を起こすとそこから抜け出すように立ち上がった。

 

「あの、我儘なんだけどね…」

「うん?」

「仁美さんばっかりじゃなくて、たまには私とも遊んでほしいんだけど、、だめだよね?」

「…?」

「私は静姉を仁美さんみたいに幸せにできないけど、その…大好きだし…」

「佳香は妬いてくれているの?」

 

問いかけると、こくりと小さく頷かれた。

姉を困らせないようにと一生懸命に考えたが、我慢できなかったのだろう。

複雑そうな表情でこちらをうかがっている。

そんな自分の妹がすごく愛おしくなって、佳香がたつ場所まで歩いていけば力いっぱいに抱きしめた。

 

「私はいつでも佳香が一番だよ?」

 優しく耳元で囁く。

 

 

いつだって、私のいちばんは大好きな佳香なのに。

そんなことを思いながら、優しく微笑んだ。

 

「私も静姉が一番だよ」

そんな佳香の言葉が嬉しくて、笑みがさらに深くなる。

 

可愛い私の佳香。

明日は、絶対にどこかに遊びに連れて行ってあげよう。

まずはどこから連れて行こうか。

 

 

【終】

 

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静さんと静さん妹の場合

相思相愛なイメージ。

静⇔妹 ってやつです。

妹ばか、姉ばか

シスコンってやつです



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