キスで隠して

佳香は静かな少女だった。
笑うときも、クスリと口角をあげ可愛らしい声音を洩らす。
照れるときは、黙ってしまう。
お人形のような少女だった。



そんな彼女が、表情を崩す原因は昔の恋人だった。
散々振り回された彼女は、昔の恋人に異常な怖がりをみせていた。
顔は真っ青である。



「佳香」
「…はい」
か細い声が返ってくる。
そんな彼女を落ち着かせるように私はそっと肩を抱いた。

「今は私の恋人だから大丈夫だよ」
遠くのほうからゆっくりと歩いてくる昔の恋人は、彼女を見つけると醜い笑みを向ける。






「佳香。久しぶりだね」
笑う相手は、真っ青な佳香の顔を見るとさらに笑みを深めた。


「オレが怖いの?」
彼女の細い腕に伸ばさる手から護るように佳香を抱き締めた。

「すみません。私たち急いでいるので」
笑みをむけて言い放つと相手は表情を崩す。

「待てよ」
明らかに不機嫌な相手は私の腕を掴んだ。
「なんでしょう?」
「あんた佳香の何なんだ?」


苛立ちを見せ始める相手に私は言い放つ。
「恋人ですけど」
そういって、可愛い佳香を抱き締める。


「美静ちゃん…」



抱き締められている佳香は目が潤んでいた。


【つづく】

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