繋いだ手
好き
好き
好き
指折り数えながら、言葉を紡ぐ。
こんなに練習しているのに。
どうして本人を前にすると、言えなくなるのだろうか。
「香里ちゃん」
「か、佳奈ちゃん!?」
ノックなしに開け放たれた扉を私は呆然と見つめた。
どうして佳奈ちゃんが
そんな問いが頭いっぱい広がる。
「香里ちゃんのお母さんがどうぞ、って」
「あ、そう…」
母よ。
すこしは娘のためを思って時間を稼いでください。
部屋着姿の私と、お出かけの準備万端な佳奈ちゃん。
あきらかにおかしい組み合わせである。
「なにが好きなの?」
「え?」
「好き、好きって言ってたから」
佳奈ちゃん耳がいいからなー
一応小さな声で呟いていたのにさ。
「あー、静さんが好きだなって」
たまたま近くにあった声優雑誌を手にとれば、私はペラペラとページをめくり静さんがピンで写っているページを佳奈ちゃんに見せる。
「静?…香里ちゃん静が好きなの?」
なぜか佳奈ちゃんは機嫌を損ねたらしく、素っ気なくなった。
「うん。静さんって憧れだから」
なんたって、なばの奥さんだし
やや言い訳に近い言葉を洩らしながら、だんだんとこちらに近づいてくる佳奈ちゃんから逃げるように背を向けた。
と、そこで私は佳奈ちゃんにがっしりと後ろから抱きしめられ動けなくなる。
「てっきり、私に言うのかと思って楽しみだったのに」
そう耳元で囁かれて、私の体は一気に力が抜けた。
【つづく】
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