蘇「フンフンフーン♪」
化け狸の蘇芳は、いつものように洗濯物を取り込み畳んでいた。
自分と、師匠の分。
てきぱきと仕事をこなし、早くも洗濯物を畳み終えた。
すでに掃除と食事の支度は済ませていた。
この狸、そこらの主婦以上に主夫である。
蘇「御飯も作ったし、服でも作るっすかねー!」
今作っているのは師匠の普段着だ。
手先が器用な蘇芳は、この家の家事全般を担当していた。
もうすぐ帰ってくる頃。
早く作り上げて驚かしてやろう。
こうしてちくちくと縫い始める蘇芳。
その手際は見事なもので、瞬く間に着物が形作られた。
あともう少し、というところで外から声がした。
蘇「あ、今開けるっすね!」
ぱたぱたと戸口に駆けていき、戸を開けた。
蘇「ぬら様ー!おかえりな…え?」
外に立つ師匠、ぬらりひょんの琥珀。
しかし、その腕に傷だらけで泥だらけの少女を抱えていた。
蘇「え、ちょ、どうしたんすかその子!」
琥「詳しい話はあとでします。蘇芳、この子の手当てと着替えをお願いできますか?」
蘇「わ、わかったっす!」
少女を居間に寝かせ、服を脱が…。
蘇「あ」
そうだ、脱がせなければならないのだ。
やむを得ないのはわかっている、が罪悪感も拭えない。
琥珀に助けを…とも思ったが、琥珀はどこかに行ってしまったらしく姿が見えない。
蘇芳は大きく行きを吸い込むと、決心した。
しゅばっと取り出したのは長めのタオル。
それを自分の目を塞ぐように巻いた。
蘇「こ、これでいいっすよね。見てない、見てないっすよ僕は」
手探りで刹那の服を脱がせていく。
途中少し…いやかなり苦労したが。
そして、身体に予め用意していたバスタオルをかけた。
そこでようやく目隠しを外す。
お湯に浸したタオルを持ってきて、見えないように注意しながら身体を拭いた。
あちこち血だらけで泥だらけなので、三回はお湯を替えなくてはならなかった。
次が難関そのA。
包帯を巻く。
包帯を巻くのはタオルごしにはできない。
まず腕や頭など、やり易いところから巻く。
蘇「こっから…っすよね」
蘇芳は包帯を巻きながら少しずつタオルもどけていくという荒業にでた。
案の定包帯を上手く巻けず、なんどもやり直すはめになったが。
こうして、苦闘(?)の末包帯を巻き終えた蘇芳は、以前作っていた小さめの着物を少女に着せた。
蘇「はぁぁぁぁ…」
なんとか少女のあられもない姿を見ずに手当てを完了させたと言う達成感から蘇芳は大きく息を吐き出した。
そこに、
琥「終わりましたか、蘇芳」
と琥珀も姿を見せた。
蘇「はいっす。あ、そうだ、この子の布団敷いてくるっすね」
とぱたぱたと駆けていき、ささっと布団を敷いた。
そこに琥珀が少女を寝かせる。
蘇「…大丈夫なんすか?この子…」
琥「さあ…命に別状はなさそうですが」
蘇「…あ、ぬら様御飯食べるっすか?もう準備できてるっすよ」
琥「そうですね、頂きましょうか」
蘇「了解っす!」
御飯を食べながら、蘇芳は琥珀からそれなりの話を聞いた。
それによれば、山の中で悲鳴が聞こえ行ってみると、この少女が倒れていたのだとか。
どうやら山の中で追われて足を滑らせたのだろうとのこと。
蘇「…何で追われてたんすかねぇ…」
琥「さあ…それは私にもわかりませんね」
蘇芳はちらりと眠っている少女を見た。
規則的に胸が上下しているものの、起きる気配はない。
蘇「…ぬら様」
琥「なんです?」
蘇「あの子…起きる、っすよね?」
琥「ふふ。大丈夫ですよ、蘇芳。きっと、彼女は起きてきます。そのときに詳しい話を聞きましょう」
蘇「…そっすね。あ、そうだぬら様。この間…」
こうして、他愛もない話をしているうちに夜は更けていった。
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