エイプリルは、屋敷の屋根に座っていた。
もちろんジューンを待っているのだ。
今日は月が綺麗。
エ「…ジューン…」
一人だと、どうしても考えてしまう。
今まで任務をこなしてきた中で、自分よりも素敵で魅力的な人を何人も見てきた。
私なんかより、ジューンにふさわしい人が…いるとしたら…?
もし、ジューンがいなくなったら…。
嫌だ。
そんな日々、考えるのも嫌だ。
エ「…早く…会いたいよ…」
膝を抱えて呟いた。
?「どうかしましたか?」
突然声をかけられ、エイプリルはあわてて振り返った。
そこにいたのは、自分と同じくらいの少女。
窓から身体を乗り出してこっちを見ている。
エ「え、あ、いや…なにも…」
見慣れない姿だが、今日来たというお客様だろう。
マーチとオクトが出迎え、エイプリルにも教えてくれたのだ。
?「初めまして、私は双葉と申します。エイプリルさん…ですよね?」
エ「は、はい」
双「よろしくお願いします。あの、お隣…行ってもよろしいですか?」
エ「はい、もちろん」
双葉は窓から屋根に乗り、エイプリルの隣に座った。
双「わぁ、綺麗な月…。絶景ですね」
月明かりに照らされている双葉は、自分にはない清楚さ、清廉さを感じさせた。
ほら、ここにも。
私なんかより、素敵な人…。
胸が刺されたようにズキンと痛んだ。
一方、双葉はそんなエイプリルの姿にどうするべきか脳をフル回転させていた。
彼女が本音を言いやすくするには、まず警戒を解かなくてはならない。
考えた末、双葉はこう切り出した。
双「ここ、誰かと良く来るんですか?」
エ「は…はい、ジューン…あ、ええと…」
双「恋人さんですね?話は良く伺ってます」
にこやかに双葉は言った。
エ「…ジューンのこと…知ってるんですか?」
双「直接お会いしたことはありません。リープさんやメイさんからお話は聞いておりますが」
よかった…。
一人安堵するエイプリル。
双「いいですね、恋人…私も欲しいです」
双葉もしみじみと呟く。
普段ならこんなこと言ったら燿の説教が飛んでくるのだが、今は過保護な保護者はいない。
エ「双葉さん、いないんですか?」
双「ええ、残念だけど」
エ「双葉さん、こんなに素敵なのに」
双「え?そ、そうですか?」
ほんのり顔を赤らめ、照れたように視線を迷わせる双葉を見て、エイプリルは少し親近感を覚えた。
双「…なんか、褒められるの恥ずかしいです」
エ「ほら恥ずかしがらないで!双葉さんは素敵なんだから!…あ」
つい熱くなり、敬語が抜けたエイプリル。
双葉はそれを見て、赤面しながらも警戒が解けてきたことを感じた。
双「恋人さん、どんな方なんですか?」
エ「とっても素敵な人です!」
エイプリルが急に元気になった。
エ「私と任務を一緒にこなしてくれるし、苦手なファーストコンタクトを引き受けてくれるし、優しいし格好いいし頼りになるし…」
すごい勢いで熱弁するエイプリル。
双「本当にお好きなんですね、恋人さんのこと」
双葉の言葉に、エイプリルの勢いがなくなった。
エ「…でも、ジューンは違うのかも」
双「と言うと?」
エ「最近、なんか様子がおかしくて…。もしかしたら…私より素敵な人ができたのかなって…」
双「…」
エ「私といるときはいつものジューンなのに…一人の時はずっとなにか考えてて…」
双葉は真っ直ぐな目でエイプリルを見つめた。
その視線には邪気はいっさい帯びていない。
純粋に自分の話を聞いてくれている。
今まで張りつめていた不安が、ポロポロと外に溢れだした。
双葉はそんなエイプリルから目をそらした。
誰でも泣き顔を他人に見られるのは嫌だろうという配慮からだ。
双「…どうぞ、これ。使ってください」
エイプリルは差し出された汚れひとつない白いハンカチを受け取ると、顔を埋めて泣き出した。
――――――――――――
エイプリルが少し落ち着くと、双葉はまた話し出した。
双「…私の意見なんですが…ジューンさんは浮気なんてしていないと思います」
エ「私も、そう思いたいよ…」
双「いえ、あの…いくつかわけがあって…。聞いてもらえますか?」
エ「理由?」
双「はい」
エイプリルは意味を理解できなかったが、双葉の話を聞くことにした。
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