「お待たせ致しました。」

謁見室に繋がる控えの小部屋で待っていたら、思ったよりも随分と早くガーネット様が入って来た。いつか見た薄青のドレスに身を包んでいる。

「先程はすみません。まだ時間まで少しあるので…お話の続きをしてもよろしいですか?」

流れる様な動作で長くふんだんな裾を操り、優雅に私の隣に腰掛けるガーネット様。…私も令嬢紛いの所作は出来るつもりだけれど、それとは全体から細部までが全く違うものだった。

「はい。…どなた…なんですか?」

「あなたもよくご存知の方です…もう、いらっしゃるのではないでしょうか。」

「いらっしゃる?」

「ええ、お呼びしているのです。あなたの協力が得られずとも、共に在る了承が得られずとも…彼には働いて頂く事になっていましたから。」

「……?」

彼…よく、知っている…?

私の知り合いなどとても少ない。いるとすれば…すれば……え?

「…もしかして……あ…!」

勘づいた瞬間はっきりと読めた気配に思わず立ち上がると、果たして一人の女兵が入室し、敬礼した。

「陛下、例の方がいらっしゃいました。」

「はい、ただ今。…わかったのですか?ミノン。あなたもよくご存知の方だったでしょう?」

「はい!」

逸る気持ちが抑えられず、いけないとは思いつつ謁見室に向かって走る。

「サラマンダー様!」

今まさに開けられた扉の向こうには…案の定、共に旅をしていた長身の男性が立っていた。

「……何でおまえが出て来るんだ……。」

開口一番に溜め息を吐かれる。

「え?…えと…ガーネット様に、呼ばれたんです。」

「…そうか。」

朝早いからなのか、それきり黙ってしまうサラマンダー様。ゆっくりとした足取りでガーネット様が歩いて来る。

「よく、来て下さいました…この様な早くに申し訳ありません。」

「………。……こいつがここにいるという事は…。」

「はい。…ミノン?よろしいですか?」

この人と一緒なら、きっと知らない人の中でも大丈夫…心強い事この上ない。

「はい!」

「では…あなたがた二人には、これから共に作業にあたって頂きます。どうぞ、これからよろしくお願い致します。」

「………具体的に…どうするんだ。」

「…ミノン。あなたに何か意向があるのでしたら、それを尊重いたします。わたくし達には気付けぬ様な事もあるのでしょう?」

「……はい…ですが、時空の歪みも、地脈の乱れも…そう簡単に正せるものではありません。……各地を浄めつつ、その地の人々を支えられればと思います。」

「わかりました。…では、その様に計らわせましょう…。」







「……サラマンダー様。」

揃って鎧に身を固める兵士達の中、ただ一人真っ白なローブに身を包んだ少女が不意に口を開く。今はかなり遠い目的地への行程のほぼ半ば…見た目はひ弱なくせに、疲れた様子がないのは流石か。

「………何だ。」

「……何故…私の付き添いなどを引き受けられたのですか?」

…突然、嫌な予感がして来る。

短い付き合いの中ではあるが、経験から推測するに…この雰囲気は、こいつが何か考え込み……しかも悪い方に転がり落ちかけている時のものだ。

「……嫌だったのか。」

「違います。…あなたがいて下さるのはとても嬉しいし、心強いです。それに、ガーネット様の言う通り…私は一人では他人と満足に話せない。でも…。」

「……でも、何だ。」

「…私の事など放って置いて、あなたはあなたの力が存分に生かせる仕事をした方が…良いのではないですか?ただ、私が人と話す為だけに…あなたは、私と共に?」

「………。」

こいつの勘が鋭いのは知っている。

だから、どうせ聞かれるだろうとは予想していた…そして、こいつがそれを思い悩むだろう事も。

「…何故、ですか…。」

「……ダガーが…おまえを心配していた。し過ぎな位な。」

「…だから…?」

「……ああ。おまえは知らねえ人間の中で一人にされんのを怖がるだろう…と。事実そうじゃねえのか?」

「………はい。」

「…なら…それで良いだろう。あいつの心配事を減らす為に俺はここにいる。」

「……はい。」

上手く話を逸らせたのか、諦めてくれたのか…前を向くミノン。


…嘘は、言っていない。

だが真実にも言っていない部分はあった。



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