辺りが暗くなり始め、人影もほとんどなくなった頃。

「…サラマンダー様。」

そろそろ帰らないかと言いかけた時…長く黙りっぱなしだったミノンが唐突に口を開いた。

「……何だ?」

「…この術……<反魂の術>って…元々、この地にありました?」

「………知らねえ。」

「…そうですか…。」

再び黙り込むミノン。当然この高さからではその表情はわからず…問い掛けの意図も読めなかった。

「…そういう事はリアに聞け。…だが何故そんな事を急に聞く?」

「………ベアトリクス様がおっしゃった通り…この術は精巧です。…そう…この世界の魔法文明では、生み出せない位…。」

「……どういう意味だ?」

「…この禁術は、もっと発達した…高度な魔法文明の生み出した術であるはず……例えるのなら…。」

僅かな沈黙。…その次の言葉で、俺はミノンの言わんとする所を読み取った。

「<融合>の様な…。」

…──融合。

傍迷惑な…ある意味すべての始まりでもあるらしいその術は、地中の異世界──魔法文明の星テラが産み出したものだという。

「………滅んだ…だろう?」

「…いいえ…。」

やっと顔を上げたかと思うと、ミノンはそのまま濃紫から深藍へと移りつつある東の空を振り仰いだ。

その視線の先には、いつかの様にぴたりと重なる月。

「………。」

手前側にあるテラの月は暗く影の様になっていて…一見すれば宙に浮かぶ光環にも見える。燃え尽きる寸前の炎の様な暗い赤色の輝きは、生命の息吹を主張する様な明るい青色の輝きに到底敵いはしていない。

だが注視すれば…確かに光っていた。

「暗いけれど…あの月は光っている。つまり…クリスタルは…世界の核は、滅びてはいないんです。……あの術には、<テラ>系統の魔法にごく近い所があります…玉からも、僅かに<テラ>の気配がした…。」

「……まさか…ジェノム達が、何かしてるのか?」

「…いいえ、恐らくは…本来は器である彼らより、もっと高級な存在です。……例えば…<ガーランド>の、様な…。」

「は?…死んだ…んだろ?」

「…はい。<ガーランド>…<テラ>の管理者は確かに死にました。肉体が…遅れて思念が、消滅した。つまり…あの瞬間<テラ>は失ってしまったんです。…眠る魂の…[管理者]を…。」

重々しい響きの言葉。だがテラに関するややこしく壮大な話が未だにいまいち理解出来ていない俺に…その重大さは測れない。

「……放り置いたのは私の落度です。迂闊だった。」

ミノンは一度目線を地面へと戻し…それから俺の目を見ると、悲哀とも後悔とも自責ともつかぬ複雑な表情をして言った。

「…復活しているのかもしれない。……かつての…<テラの民>が…。」



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