目の前が見えないくらい目深に被ったフード。

その布越しに、私は今や重苦しい程にあの気配が充満する街を見た。隣には、私を正気でいさせてくれる存在…確かめる様に筋肉の隆起した上腕に触れる。

やがて歪みの塊と…まだあまり弱ってはいない人の気配を感じた。震えを無理やり抑え込んで歩み寄り、声を掛ける。

「……あの……すみません…。…その、玉…は…どちらで?」

「あら…あなたも大事な人を亡くしたの?安心して、今日は来てないけど…多分明日にでも、黒いローブのお方が街にいらっしゃるはずよ。…それが良い方でね…お代は要らないなんておっしゃるの。もしかしたら神様なのかもね…ありがたいばっかりだわ。」

話し方や声から察するに、年若い女性だった。親切な言葉には同情の様な色が滲んでいて…その暖かい声音にずくりと心臓が脈打ち、自然と指先に力が入る。

「……そうですか…ありがとう、ございました…。」

どうしても離せなくてサラマンダー様に手を触れたまま一礼すると、女性は心配そうな口調で言った。

「…もしかして目が不自由なの?お可哀想に…。介添えのお方、この方がちゃんと望みを叶えられる様に助けてあげてね。」

……良い人…だ。

女性は、顔を見せもしない人間に親切に話してくれる様な…何の迷いもなく初対面の人間を気遣える様な、優しい人だった。

たとえその手に──芽吹きかけた禍の種が秘められていようとも。

「……失礼…致します…。」

別れ際に垣間見ると、女性は大事そうに愛おしそうに玉を握り締めていた。まるで…母親が我が子を胸に抱く様に。

その表情は、哀しいまでの慈愛とただ純粋な期待による輝きに満ちていた。







最初の若い娘に始まり、何人かに聞いた結果──元凶と思われる存在は明日現れるであろう事、そしてその素性はおろか…名さえも誰一人として知らない事が明らかになった。この収穫が多いのか少ないのかは不明だが、全く無いよりはマシだろう。

「………。」

予想通りと言うべきか徐々に口数を減らし…しまいには顔さえ上げなくなったミノンは、聞き込みの間じゅう常に手を離さなかった。確かにフードを目深に被っている上ずっと俯いている為、周囲は見えないのかもしれない。だが、細い指に込められた力には少し違う意図を感じた。

よく勘違いされた様に、盲目の少女を介添えしている訳では勿論ないが…何故か少しそんな気がして自分でも疑問に思う。

…何にせよ、特に何をするでもなくただ付き合うというのは暇で退屈だった。



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