風のない…静かな夜。

「…またおまえか。」

一変して騒がしくなる気配に深く息を吐き、煙草の火を消す。

「あら、随分なお言葉ね…もっと歓迎したらどう?」

「……冗談じゃねえ。」

「…まあ良いわ。隣、座るわよ。」

こちらの反応など気にも留めず、遠慮の欠片もない態度で距離を詰めるリア。流石に正装ではなくラフな普段着姿だが、いつもよりきっちりと纏めた髪はそのままだ。

「…ミノンちゃん、あの賊事件の後から少し変わったわね。何か言ったの?」

「……別に。」

「嘘。…ミノンちゃん、笑ってる事が多くなったわ。けど…どこかちょっと無理してる。貴方、何か言ったんでしょ?」

咎める風ではないが、言い逃れは許されない口調。全てを見透かす様な澄んだ紫から目を逸らす。

「………。…あまりにも不甲斐ねえから、笑えっつっただけだ。死なせた奴のぶん強く生きろと。」

「…そう…。…貴方の言葉…貴方が思うよりもずっとずっと強く、ミノンちゃんに響いてるわ。やっぱり、貴方の為に強くあろうと頑張ってるのね…。」

いつかの様な真意の読めない言い回し。癖なのか、意図してやっているのかはわからない。

「………だから何だ。」

「あの子、貴方のこと慕ってるのよ。それで貴方の為に…ちょっと頑張りすぎてる。だから、責任取ってあげてちょうだい。」

「…は?」

言われる意味も…言われた意味もわからず一瞬静止してしまう。

「支えてあげて。あの子が強くいられなくなった時、あの子があの子でいられなくなった時、その手でその心で…あの子を…守ってあげて。」

真面目な声にちらと目線を戻せば、万人を魅了するかの様な光を湛えた瞳がこちらを見つめていた。一点の曇りもないアメジストは至って真剣だ。

「………。」

「…腑に落ちない、って顔ね。」

「……何故おまえが頼むんだ?」

ジタンの様に馬鹿らしくなるほどお人好しな人間なのだろうとは思う。だがそれにしても、出会ってまだたった半月…しかも日頃わずかしか顔を会わせないやつに、何故ここまで入れ込むんだ?

「ん?そーね、色々あるけど…。」

何故か楽しそうに瞳を細めるリア。そして笑う様な溜め息と共に、さらりと言い切った。

「一番は、あの子のことが好きだからかしら。」



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