「この度こちらに来て頂いたのは、現在ここアレクサンドリア市街に発生している怪事件の話をお聞き頂きたかった為であります。」
「…はい。」
怪事件という言葉に、無意識の内に手に力が入る。
「始まり…というより最初の城への報告は、10日程前になりましょう。内容は[民の間に妙なまじないが蔓延している]といったものでした。あるアイテムを術者より手に入れ、それに願を掛けると…。」
次の言葉を…私は咄嗟には信じる事が出来なかった。
「……死者が甦る、と。」
「…っ…!?」
<反魂の術>。
それは現世における最大の禁術であり…同時に秘術である。世の理に真っ向から背くこの術は、術式の中でとりわけ罪深いからだ。どんな手法を用いようと地脈は大いに乱れ──術者は必ず死に至る。
…それが、蔓延している?
「そして3日程前、怪死が相次いでいるとの報告がなされました。死因は………ミノン殿?いかがなさいました。」
「………。」
反魂を行った人間は死ぬ。理由は病でも傷でもない…生者なら誰しも体内に持つ気の流れが乱れ、生を持続出来なくなるからだ。
「…ミノンちゃん…お話、続けても大丈夫?」
「……どうした?」
「!…あっ…いえ…すみません…どうぞ、続きを。」
「…では…。…死因は術者も医者も誰一人として究明出来ませんでしたが、おそらく妙なまじないとの関連は確かだろうと口を揃えておりました。」
もし生を持続出来たとしても、魔力を使い果たしたか元々持たない人間が術式を続行するには生命力を削るしかない。反魂に要する力はヒトには多大すぎる…恐らく誰であろうと7日と保たないだろう。
「故に我々はあなたをお呼びしました。この怪異を…静めて頂きたいのです。」
人の心が生み出す悲劇。それを鎮めるのは…同じ人の心を持つ私。
人が自らの生を犠牲に、死者を黄泉還らせる。
私は自らの力を用いて、その連鎖を断ち切る。
……心がすくんだ。
「………私に…出来る限りの事を致しましょう。」
「ありがとうございます!…ベアトリクス、おまえから付け足しはあるか?」
「…先日、そのアイテムをいくつか民より回収いたしました。…少々失礼致します。」
さっと立ち上がり、机の上にあったガラス瓶を手に取るベアトリクス様。
その瞬間、全身の肌が粟立つ。
「…っ…!」
…いったい、何故気付かなかったのだろうか。
禁じられた秘術は…今もここにあったのだ。
「こちらです。」
机の周りに施された結界を見て、私はベアトリクス様の護身の為だと決めつけていた。何も考えず、思い込んでいた。
厄災を封じ込めているなどとは、一瞬たりとも考えなかった。
…どんなに力があろうと、浅はかな考えしか出来ないのならばそれは無駄にしかならないだろう。
私は誰より、愚かだった。
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