「すまぬ、遅くなった!」
音を立てて扉が開くと同時に部屋中に響き渡った大声に、思わず肩を小さく震わせる。
「…と…とと、これはミノン殿!まことにお久し振りでありますな。」
私の姿を見留めると、スタイナー様はわざわざ声を抑えてくれた。
「お久し振りです。」
「お元気そうで何よりであります。ベアトリクスも、変わりはないか?」
「ええ。」
「なによスタイナー私はムシなわけ?」
「そ…そんな事はしておらぬ。だが先程会ったばかりだろう。」
「ぷーっ。」
「……いつまでも喋ってんじゃねえよ……。」
呆れた様な声と共に後ろから小突かれ…というよりは突き飛ばされ、前のめりになるスタイナー様。
「ぐぉっ!…すまぬ。」
改めて部屋の中に入って来たスタイナー様の後ろからは、やはりサラマンダー様が入って来た。特に変わった様子はないけれど…スタイナー様と一緒に来たという事は、城の方へ行っていたのだろうか。
「さて…さあベアトリクス将軍、お話どーぞ?」
「……いえスタイナー、まずはあなたからお願い出来ますか?」
「はっ?…わかった。では陛下の側近として知る話をいたそう。」
ベアトリクス様の隣に座るスタイナー様。小さく見えるソファに、仲間とはいえ軍の重役──しかも一回り近くかそれより年上の大人達と向かい合っている事に今さら気付く。
自分が急に小さな子供になった気がして縮こまった時…サラマンダー様が私の隣に腰を下ろした。
「………何見てんだよ…座っちゃ悪かったのか?」
「いーえ。お似合いですこと。」
「なっ…!」
「…!?」
驚きや色々が混ざって言葉にならない声を上げてしまう。決して言われて嫌ではないけれど…何だか気恥ずかしい。
「良いわねぇ若いって…。」
綺麗な紫の瞳を細め、私達を眺めるリア様。若い人間の姿をしてはいても正体は長寿の大妖であるからなのか…その笑みはまるで我が子を見守る母親の様だ。
「…リア、話をさせてはくれぬか。」
「うっふふ…ごめんなさーい。」
スタイナー様に咎められると、リア様は笑みを浮かべたまま前を向きなおした。…緊張が少し和らいだ事に遅れて気付く。
「…さて…ミノン殿。」
「はい。」
適度に気を引き締め直し、私は話に身構えた。
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