「……リア様。」
「なあに?」
城門を出た時、ミノンはリアの名を静かに呼んだ。足を止めて顔を見上げる。滅紫の髪が風に揺れた。紫の瞳には優しい輝きが宿っている。
「ずっと……気になっていました。――何故、私にここまでしてくださるのですか。」
今日だけのことではなかった。出会った日から、リアは常に献身的に支えてくれていたのだ。サラマンダーのサポートにまわっていたため、直接関わる機会は彼よりも少なかったかもしれない。しかし、確かに強い力となっていた。リアがミノンの肩に手を置く。
「……好きだから、よ。」
彼女は呟くように、しかしひどく大切そうに、選んだ言葉を声にした。
「私ね、ミノンちゃんが好きなの。だから、守ってあげたくなっちゃう。何でもしてあげたくなっちゃう。ミノンちゃんのためなら……って。」
「…………私、のこと、が……、……何故……。」
「人を好きになるのに、理由なんていらないでしょう? どこが好きかなんて、どうして好きかなんて、わからないわよ。好きになっちゃったんだから。」
リアが目を細める。晴れ晴れとした、美しい笑みだった。人を惹き付ける天性の魅力を感じさせる。
「私も、……リア様が、好きです……理由など、わかりません……。」
「そういうものよ。……みんなのことも、好きなんでしょう?」
「……はい、……っ……。」
そう聞いたミノンは、城を振り返って声を詰まらせた。すぐに何かを拭い去るように前を向く。
「さ……みんなが、待ってるわ。帰りましょう。」
「お帰り、美音。」
「……っ、……優輝……。」
軍支部の出入口で真っ先に出迎えたのは、西陽を頬に受けるユウキだった。朱を宿した漆黒の瞳でミノンをじっと見つめる。
「城は、楽しかったか?」
「……うん。」
その返答はどこかぎこちなかった。落ち着かない心を紛らすかのように手を握り合わせる。
「…………怒ってねえから。……悪かった。」
「……っ……! 何で、何でよ……! 何で優輝が謝るの、私、……私……!」
ユウキがぽつりと付け足した謝罪を耳にした途端、ミノンは抑えていた感情が爆発したように静けさを失った。解いた拳を身体に打ち付ける。
「お前の気持ち……もっと、考えられたんじゃねえかって。」
「そんなことない! 私こそ、……私こそ、ごめんね……! 優輝は、私のこと、考えてくれてたのに……私、ぜんぜん、優輝の気持ち考えられてなかった……。」
顔を覆ったミノンを、ユウキはそっと抱き寄せた。慈しむように手を動かす。ミノンもそっと腕をユウキの背に回した。懐かしい温もりを改めて全身で感じる。長い3年、ほとんど夢の世界でしか会うことができなかったのだ。何も言わずに互いの存在を確かめる。やがてか細い泣き声が嗚咽に変わった頃、ユウキは手を止めた。ミノンが顔を上げる。
「……行くのか。」
「うん。……私、皆様のこと、本当に、本当に大好きなんだよ。……だからね、絶対……守りたいの。――守るの。」
「…………そうか。」
そう呟くと、ユウキはどこへともなく姿を消した。
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